『中国の野望を絶つ日米共同作戦』
2024.04
日本安全保障戦略研究所上席研究員 樋口譲次
『考察Y』 中国の野望を絶つ日米共同作戦
-構成-
1 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の位置付けと仕組み
2 同盟調整メカニズム(ACM)と共同計画策定メカニズム(BPM)
(1)日米間の政策協議の場
(2)同盟調整メカニズム(ACM
(3)共同計画策定メカニズム(BPM)
3 日米共同作戦計画
4 日米共同訓練・演習
(1)統合による日米共同訓練―日米共同統合演習―
(2)各自衛隊の日米共同訓練
ア 陸上自衛隊(陸自)

イ 海上自衛隊(海自)
ウ 航空自衛隊(空自)
5 東日本大震災時の「トモダチ作戦」から見た日米共同作戦
付図・付表:
表6-1 ACMの組織
図6-1 「トモダチ作戦」における自衛隊と米軍の共同調整(2011年)
図6-2 JTF519
表6-2 演習実施部隊等
表6-3 冷戦後に米国が関与した主要な戦争・紛争
<参考> *各考察等に戻る:
考察T考察U考察V考察W考察X考察Y考察Z最後に一言
主要参考文献略語(Abbreviation)解説

 これまで、米国の戦略・作戦構想と南西地域を焦点とした日本の防衛構想について述べてきた。
 国家安全保障戦略(国家安保戦略)は、「拡大抑止の提供を含む日米同盟は、我が国の安全保障政策の基軸である」とし、国家防衛戦略(国防戦略)は、 「地域の平和と安定に大きな責任を有する日米両国がそれぞれの戦略を擦り合わせ、防衛協力を統合的に進めていくことは時宜にかなう」 (傍線は筆者)として、それぞれ日米同盟の意義・重要性を強調し、その方向性を示している。
 こうした背景の下、日米両国が、より力強い同盟を構築し、より大きな責任を共有することを前提に、平時から緊急事態までのあらゆる段階において、 一体となって抑止力及び対処力を強化するための戦略的構想を明らかにしているのが「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」である。
 本章では、このガイドラインを概観しながら、日米防衛協力の実態を追ってみることとする。

1 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の位置付けと仕組み
 最初のガイドラインは1978年に策定され、1997年と2015年にそれぞれ改訂された。日米両国は、これまで、ガイドラインに基づく半世紀に近い安全保障・防衛協力の歴史を共有してきたことになる。
 ガイドラインは、日本国憲法、日米安全保障条約(日米安保条約)、そして国際連合憲章等の規定や約束を受けて策定され、日米間の安全保障・防衛協力の実効性を向上させるため、 両国の役割・任務や協力・調整の在り方、日本の平和及び安全を確保するための措置などについての一般的な大枠及び政策面・運用面の方向性を示している。
 日本国憲法の関連では、海外派兵や徴兵制の禁止など憲法上の制約と、専守防衛や非核三原則などの防衛政策上の基本方針を遵守し、憲法の枠内で制定された国家安保戦略と国防戦略の基本方針に従って行われることとしている。
 日米安保条約では、日米安保条約第5条の規定に基づき、わが国に対する武力攻撃があった場合、日米両国が共同して対処するとともに、同第6条(極東条項)の規定に基づき、米軍に対してわが国の施設・区域を提供することとしている。
 国連憲章等では、紛争の平和的解決及び国家の主権平等に関することなどの国際連合憲章の規定並びにその他の関連する国際約束を含む国際法に合致することとしている。

 同盟間で作戦を行うに当たり、NATOは、「集団防衛」(北大西洋条約第5条)を任務として欧州連合軍(ACO)を組織し、同司令官の下で、統一指揮/一元指揮を行う。
 これと類似した一体的指揮統制の体制をとっているのが、米韓連合軍司令部である。すでに、戦時作戦統制権の韓国への移管が決まっているが、現時点では、同司令官を在韓米軍司令官(大将)、副司令官を韓国軍大将がそれぞれ務めている。
 一方、わが国は、憲法上の制約が大きいことから、「自衛隊及び米軍は、緊密に協力し及び調整しつつ、各々の指揮系統を通じて行動する」(ガイドライン、傍線筆者)としている。
 日米の指揮関係は、いわゆる主権国家相互の「並列型」の関係という位置付けであり、NATOなどの「垂直型」の関係と比較して、この点に大きな特徴がある。
 したがって、NATOは、多数の加盟国が参加した連合作戦(Combined Operations)を行う一方、日米は共同作戦(Bilateral Operations)と呼ばれる二国間の協力・調整作戦を行うことになっている。
 そのこともあり、ガイドラインは、日米いずれの政府にも「立法上、予算上、行政上又はその他の措置をとることを義務付けるものではなく、・・・各々の判断に従い、このような努力の結果を各々の具体的な政策及び措置に適切な形で反映することが期待される」としている。
 すなわち、日米両政府には、建前上、ガイドラインによって生じる政策及び措置の実行を期待されているが義務はなく、NATOなどと比較して、より柔らかな協力連携関係になっていると言えよう。
 しかし、このような日米関係をもって、有事における軍事作戦が適時適切かつ一体的・有機的に遂行できるのかについては、大いに議論のある所である。

2 同盟調整メカニズム(ACM)と共同計画策定メカニズム(BPM)
 以上述べたガイドラインの位置付け・仕組みから、日米防衛協力のためには、平時から緊急事態まで、日米両政府が緊密な協議並びに政策面・運用面の的確な調整を行うことが必要となる。
 そのため、両国は、政府間の政策協議をはじめ、平時から利用可能な「同盟調整メカニズム(ACM)」と「共同計画策定メカニズム(BPM)」を設置し、運用面の調整と共同計画の策定を強化するとしている。

(1)日米間の政策協議の場
 そのため、日米首脳会談をはじめ、防衛・外務の閣僚級協議の枠組みで「2+2」と呼ばれる日米安全保障協議委員会(SCC)、日米安全保障高級事務レベル協議(SSC)、防衛協力小委員会(SDC)及び自衛隊レベルにおける調整の枠組みがある。
 中でも、「2+2」のSCCは、政策協議の代表的なものであり、安全保障分野における日米協力にかかわる問題を検討するための重要な協議機関となっている。
 SDCは、日本側が外務省北米局長、防衛省防衛政策局長及び統合幕僚監部の代表、米側が国務次官補、国防次官補、在日米大使館・在日米軍・統合参謀本部及びインド太平洋軍の代表で構成されている。 本組織は、SSCを補佐するとともに、下部組織の共同計画策定委員会(BPC)との緊密な連携の下で、計画策定にかかる指示を策定し、共同計画策定の全過程を通じてSCCに助言を行う。 また、BPMの全構成要素間の調整、実効的な施策協議・調整及びその他関連事項についての手続と手段について協議し、共同対処行動を確保すための指針や日米共同作戦計画など、日米防衛協力のあり方に関する全般的管理を行う場となっている。

(2)同盟調整メカニズム(ACM)
 ACMは、ガイドラインに基づき2015年に設置されている。その目的は、先にも述べたように、平時から緊急事態までのあらゆる段階における、 自衛隊及び米軍により実施される活動に関連した政策面及び運用面の調整を行い、適時の情報共有や共通の情勢認識の構築・維持を行うことにある
。  ACMは、同盟調整グループ(ACG)、共同運用調整所(BOCC)、そして各自衛隊及び米軍各軍種間の調整所(CCCs)から構成されている。
 各組織の概要は、次の図表の通りである。
表6-1 ACMの組織
組織 任務・役割構成員部隊
AGC・自衛隊及び米軍の活動に関して調整を必要とする全ての事項に関する調整
・切れ目のない対応を確保するため、日米合同委員会(JC)と緊密に調整
<日本側>内閣官房(国家安全保障局含む)、外務省、防衛省、自衛隊、関係省庁(必要に応じ)の代表
<米側>国家安全保障会議(*)、国務省(*)、在日米大使館、国防省国防長官府(*)、統合参謀本部(*)、インド太平洋軍司令部(*)在日米軍司令部、関係省庁(*)の代表 (*必要に応じて参加)
BOCC・自衛隊及び米軍の活動に関する運用面の調整を実施する第一義的な組織<日本側>統合幕僚監部、陸上・海上・航空幕僚監部の代表 <米側>インド太平洋軍司令部、在日米軍司令部の代表
CCCs・各自衛隊及び米軍各軍レベルの二国間調整を促進
・適切な場合、日米各々又は双方が統合任務部隊を設置して、さらにCCCsを設置する場合がある。
<日本側>陸上・海上・航空自衛隊の代表
<米側>各軍の構成組織の代表
備 考日米合同委員会(JC)は、日米地位協定の実施に関して相互間の協議を必要とする全ての事項に関する政策面の調整を行う組織
<出典>令和5年版『防衛白書』を参考に筆者作成

 このメカニズムの設置以降、自衛隊及び米軍は、緊密な情報共有、円滑な調整及び国際的な活動を支援するための要員の交換を行っている。
その結果、例えば、熊本地震、北朝鮮の弾道ミサイル発射や尖閣諸島周辺海空域における中国の活動について、日米間では、このメカニズムも活用しながら、より緊密な連携がとられるようになっている。

(3)共同計画策定メカニズム(BPM)
 BPMは、前記のSSC、それに次ぐSDCの下部組織として設けられたもので、日本側が自衛隊の代表、米側がインド太平洋軍及び在日米軍の代表で構成され、共同作戦計画を実質的に策定する任務・役割を負っている。


3 日米共同作戦計画
 その共同作戦計画は、自衛隊及び米軍による整合のとれた運用を円滑かつ実効的に行うことを確保する目的で策定され、SCCなどの指示や関連情報などを基に、継続的に更新し、日米両政府双方の計画に適切に反映されることとされている。
 しかし、わが国では、共同作戦計画の存在やその概要が公式に発表されたという記憶がない。
 一方、米韓連合作戦を行う韓国では、計画の存在と概要が公表されている。
 例えば、朝鮮日報(2015年10月7日付)は、米韓連合作戦計画(OPLAN)について、次の3つの計画の概要を、要図を交えて明らかにした。
@OPLAN5015:北朝鮮の核ミサイル攻撃の兆候等に対する軍事施設等への先制攻撃(全面戦争への拡大も視野に)
AOPLAN5027:北朝鮮の韓国への奇襲攻撃(第2次朝鮮戦争型)に対する防衛作戦(防御から反撃へ)
BOPLAN5029:北朝鮮の内部崩壊への対応

 5000番代の作戦計画は、米インド太平洋軍の作戦計画を意味していると見られるが、日本で共同作戦計画が日の目を見ないのは、日韓両国の秘密保全のあり方(規則)の違いや、関係国を刺激したくないといった政治的配慮などによるものと推察される。
 翻って、安倍晋三首相(当時)に対し戦略提言を行ってきた米国の歴史学者・戦略家でCSIS上級顧問のエドワード・ルトワック氏は、産経新聞(2022年2月22日付)の「世界を解く」で、「日本政府は台湾有事を想定した非常事態に有効な行動計画を策定済みだ」と明言している。
 共同計画策定メカニズム(BPM)の存在やルトワック氏の証言などから判断して、日米間には、米韓と同じように、共同作戦計画が存在するのは紛れもない事実であろう。そして、共同作戦計画に沿って、実戦的な共同訓練・演習が行われていると理解するのが自然ではなかろうか。

4 日米共同訓練・演習
 日米防衛協力の実態は、正に「現場」としての共同訓練・演習に現れる。では、その共同訓練・演習は、どのように行われているのであろうか。
 日米共同訓練・演習は、わが国の安全保障の抑止力・対処力を強化するとともに、地域の平和と安定に向けた日米の一致した意思や能力を示す上でも、極めて重要である。
 そのため、自衛隊は、日米の相互運用性や相互連携要領を向上して、共同対処能力を強化することを目的に、日米共同統合演習(実動演習及び指揮所演習)や各軍種間の共同訓練を着実に積み重ねている。

(1)統合による日米共同訓練―日米共同統合演習―
 自衛隊は、1986年以来、武力攻撃事態などを想定した日米共同統合演習(キーン・ソード:実動演習、キーン・エッジ:指揮所演習)を実施している。
 2022年11月10日から19日に行われた「キーン・ソード23」では、グレーゾーンから武力攻撃事態などにおける自衛隊の運用要領及び日米共同対処要領を実動により演練した。
 このほか、日米共同による弾道ミサイルへの対処(MD)などの訓練を実施し、自衛隊の統合運用能力及び日米共同対処能力の維持・向上を図っている。
 本演習は、2022年度最大規模の演習であり、自衛隊約2万6千人、米軍約1万人が参加した。また、一部の訓練には、米軍指揮下として豪軍、カナダ軍及び英軍が参加し、多国間の連携要領についても演練している。

(2)各自衛隊の日米共同訓練
ア 陸上自衛隊(陸自)
【オリエント・シールド23】
 オリエント・シールドは、陸自と米陸軍間の共同訓練である。
 本訓練は、領域横断作戦(CDO)と米陸軍のマルチドメイン・オペレーション(MDO)を踏まえた日米の連携能力向上に資する訓練を実施した。
 本訓練には、前年に引き続き、米本土から高機動ロケット砲システム(HIMARS)などを装備したマルチドメイン・タスクフォース(MDTF)が参加し、共同対艦・対空戦闘訓練や電子戦訓練などを演練した。 また、本訓練は、矢臼別演習場や奄美駐屯地など、北海道から九州まで、日米両部隊が日本列島南北の広域に展開して行われた所に大きな特色がある。
 さらに、米小型揚陸艇部隊と陸自部隊との初の連携訓練として、島嶼部の特性を踏まえた補給品等の事前集積、追送等といった後方支援分野についても演練し、日米陸軍種間の連携の進化を図っている。
【レゾリュート・ドラゴン23】
 レゾリュート・ドラゴンは、陸自と米海兵隊間の共同訓練である。
 本訓練は、自衛隊の領域横断作戦(CDO)と米海兵隊の遠征前進基地作戦(EABO)を踏まえた日米の連携要領の具体化を図る目的で、一連の島嶼防衛作戦について演練した。
 指揮所機関訓練では、日米共同作戦調整所を開設し、情報収集・共有、火力調整(ターゲティング)、兵站・衛生支援等の調整、戦闘指導等を実施した。
 実動訓練では、北海道、四国、九州、沖縄県の与那国駐屯地及び在日米軍施設等を島嶼等に見立てて展開し、島嶼防衛に必要な陸自の地対艦ミサイル(SSM)、 多連装ロケットシステム(MLRS)、米海兵隊の高機動ロケット砲システム(HIMARS)等を活用した対艦・対空戦闘や対着上陸戦闘、兵站・衛生支援等の訓練を実施した。
 その中で、陸自のSSMと米海兵隊のHIMARS等による実射訓練を実施するとともに、日米の垂直離着陸機オスプレーによる患者後送や日米共同の滑走路復旧等も演練した。
 本訓練は、2023度7月に実施した前段の指揮所演習の成果を踏まえ、南西地域を担当する西部方面総監部と第3海兵機動展開部隊司令部以下により実施された国内における米海兵隊との最大規模の実動訓練となった。
【日米共同方面隊指揮所演習(YS-85)】
 YSは、1982年に始まった陸自と米陸軍種(陸軍と海兵隊)を中心とした国内最大規模の共同指揮所演習であり、2023年で85回目を迎えている。
 本演習は、陸自側は陸上幕僚長、米側は太平洋陸軍司令官が統裁官となり、東部方面隊・朝霞駐屯地、北部方面隊・東千歳駐屯地、東北方面隊・仙台駐屯地、 そして米国ワシントン州ルイス・マコード米軍合同基地などで、約6800人が参加し、2023年11月30日(木)から12月13日(水)までの約2週間にわたって行われた。
 演習実施部隊等は、次記の通りである。
表6-2 演習実施部隊等
演習実施部隊等
自衛隊・統裁官:陸上幕僚長
・演習部隊長:陸上総隊司令官、北部方面総監、東北方面総監
・実施部隊:陸上幕僚監部、陸上総隊、北部方面隊、東北方面隊、教育訓練研究本部、補給統制本部など
・協力部隊等:統合幕僚監部、海上自衛隊、航空自衛隊、北海道防衛局、東北防衛局など
米軍・統裁官:太平洋陸軍司令官
・演習部隊長:第1軍団長、第7歩兵師団長、第11空挺師団長
・実施部隊:太平洋陸軍司令部、在日米陸軍司令部、第1軍団、第7歩兵師団、第11空挺師団、
 第3マルチドメイン・タスクフォース(MDTF)、第8戦域戦力維持コマンドなど
・協力部隊等:太平洋艦隊、太平洋空軍など
豪軍・演習部隊長:第1師団長
・実施部隊:第1師団
※豪軍は米軍に指揮統制下で行動

 本演習は、日米海・空軍種の参加を得た実質的な共同統合演習であり、戦略レベルから作戦レベルの指揮幕僚活動を演練するとともに、 作戦を支える兵站、衛生、人事等の要素を拡充して行われ、共同作戦計画の検証・見直し、さらには、有事の際の日米協力や日米両軍の役割分担を行う上での課題の洗い出しにも資する演習である。
 陸軍種間では、宇宙、サイバー及び電磁波の領域を加えた自衛隊のCDOと米陸軍のMDO、海兵隊のEABOにかかる連携要領について演練した。

 本演習には、これまでオブザーバーであった豪陸軍の第1師団が師団長の指揮の下、演習部隊として初めて参加し、比国もオブザーバー参加して統合化された多国間演習へと拡大している。

イ 海上自衛隊(海自)
 太平洋の戦場でアメリカ海軍とまみえた日本海軍の伝統を継承する海自は、戦後「海の友情」によって米海軍と強く結ばれ、その協働の姿勢が日米同盟を基底で支えてきた。
 今日も、その伝統の下、海自は米海軍と精力的に共同訓練を実施してきており、艦艇や航空機による日米共同訓練、対潜特別訓練、掃海特別訓練、衛生特別訓練、日米衛生共同訓練を通じ、日米共同対処などの実効性やCDO能力の向上を図っている。
 その中で、特に水中戦(対潜特別訓練や掃海特別訓練など)は、これからの海戦の切り札とされており、共同訓練においても重視されていると見られる。
 海自が行う最大の演習は、1954年から始まった海上自衛隊(海自)演習である。
 本演習は、米海軍とは1981年から、カナダ海軍とは2017年から、 オーストラリア海軍とは2019年から実施されてきた。また、2023年度の本演習にフィリピン海軍がオブザーバーとして初めて参加した。
 2023年度の海自演習は、各級指揮官の戦術判断・部隊運用要領を演練し、海自の任務遂行能力の向上を図るとともに、海自と米海軍、オーストラリア海空軍、カナダ海空軍及びフィリピン海軍との連携強化を目的に、2023年11月10日(金)から11日間、日本周辺海空域で実施された。
 参加部隊等は、海自がヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」の他、艦艇約15隻、哨戒機「P-1」の他航空機約20機、米海軍が空母「カール・ヴィンソン」の他艦艇約10隻、 哨戒機「P-8」の他航空機約10機、オーストラリア海空軍が駆逐艦「ブリスベン」の他艦艇1隻、哨戒機「P-8A」航空機1機、カナダ海空軍がフリゲート艦「バンクーバー」の他艦艇2隻、哨戒機「CP-140」航空機1機 であった。フィリピン海軍は、派遣幕僚による参加であった。
 演習では、主として対潜戦や対水上戦などの各種戦術訓練や洋上補給などが演練され、日米を中心に多国間の実働演習へと充実発展させている。
 また、米国の空母打撃群との共同訓練を行い、日米がともに行動している姿を示して、日米同盟の抑止力・対処力の強化を図っている。

ウ 航空自衛隊(空自)
 空自は、1996年以来参加している米空軍演習(レッド・フラッグ・アラスカ)や1999年以来実施しているグアムにおける共同演習(コープ・ノース)などにおける米空軍との共同訓練・演習を通じ、日米同盟の抑止力・対処力を強化している。
 コープ・ノース演習は、1978年に空自と米空軍が三沢基地(青森)で実施したのが始まりで、1999年に拠点をグアムのアンダーセン空軍基地に移動し、じ後、逐次規模を拡大して、現在、太平洋空軍最大の多国間演習となっている。
 2023年2月に実施されたコープ・ノース23は、日米豪3か国空軍の共同演習になっており、実戦的訓練環境の下、部隊の戦術技量、日米共同対処能力及び参加国間の相互運用性の向上を図ることを目的として実施された。 本演習には、日米豪3か国の他に、フランス及びカナダも加えて人道支援・災害救援活動に係る共同訓練を実施し、部隊の能力及び参加国間の連携要領の向上について演練した。  空自からは、F-15J/DJ×6機、F-2A/B×6機、UH-60J×1基、E-767×1基、K/C-130H×2機及びKC-767×1機、人員約500名が参加した。
 場所は、「迅速機敏な戦力展開(ACE)」や「広域展開基地システム(DABS)」を踏まえ、米国グアム島・北マリアナ諸島及び両島(諸島)の周辺空域 、 パラオ共和国ロマン・トメトゥチェル国際空港 、海上自衛隊硫黄島航空基地を使用し、2023年2月8日(水)から17日にわたって実施された。
 演習は、防空戦闘訓練、戦術攻撃訓練、空対地爆撃訓練、捜索救難訓練、戦術空輸訓練、物料投下訓練、即応機動訓練(ACE)、警備訓練、滑走路被害復旧訓練及び航空医療搬送訓練など広範多岐にわたっている。
 その中で、特に、米空軍の作戦構想であるACEやDABSを共有し、それを踏まえた共同訓練が行われていることが注目される。
 また、空自は、米海軍や米海兵隊との対戦闘機戦闘訓練、要撃戦闘訓練、防空戦闘訓練、戦術攻撃訓練、空中給油訓練、捜索救難訓練、編隊航法訓練などの各種日米共同訓練により、日米共同対処などの実効性の向上や領域横断作戦能力の向上を図っている。

 以上説明したのは、日米共同訓練・演習の代表的な一部である。
 令和4年版『防衛白書』の「主な日米共同訓練の実績(2021年度)」によると、自衛隊は、毎年、各種の日米共同統合演習を実施するとともに、各自衛隊は、それぞれ平均して20回前後の日米共同訓練を実施している。 その他、各自衛隊と米軍のカウンター部隊との間で平素より行われている小規模な訓練等を加えると、その機会はさらに多数に及んでいる。
 また、読売新聞(2024年3月3日付)によると、自衛隊が2023年に参加した多国間の共同訓練・演習が56回を数え、現在の統合運用体制になった2006年比で18倍に増えている。
 このように、自衛隊は、中国あるいは北朝鮮を睨みながら、日米共同訓練・演習のみならず数多くの多国間共同訓練・演習にも参加し、インド太平洋地域の国々と連携して抑止力・対処力の強化に努めている。

5 東日本大震災時の「トモダチ作戦」から見た日米共同作戦
(1)災害時における日米共同作戦
 2011年の東日本大震災で米軍は、日本の危機に際して「トモダチ作戦(Operation TOMODACHI)」という大規模な災害救援活動を行った。この際の自衛隊と米軍の共同行動は、両軍の長年にわたる共同訓練・演習で培われた 日米の「強い絆」と成果が発揮され、高い共同対処能力を示したと評価されている。
 米軍は、最大時で人員約1万6000人、艦艇約15隻、航空機約140機を投入するなど、その支援活動はかつてない規模で行われ、わが国の復旧・復興に大きく貢献するとともに、被災者をはじめ多くの国民が在日米軍への信頼と感謝の念を深めた。
 一方で、国内災害における日米の役割・任務・能力の明確化、防災訓練への米軍の一層の参加を通じた共同要領の具体化、情報共有と効果的な調整のためのメカニズムのあり方などの課題も明らかとなった。
 これらの課題を踏まえ、2013年12月に策定した南海トラフ巨大地震の対処計画などに日米共同対処要領が記載されるとともに、南海トラフ地震発生時における自衛隊、在日米軍、関係省庁、 関係地方公共団体などとの連携による震災対処能力の維持・向上などを目的とする日米共同統合防災演習の実績を重ねている。
 また、平成2016年熊本地震においては、米海兵隊オスプレイ(MV-22)による生活物資の輸送やC-130輸送機による自衛隊員の輸送などへの協力が行われ、その際、地震対応のために組織された統合任務部隊が現地に開設した日米共同調整所を含め、同盟調整メカニズムが活用された。
 2024年1月に発生した能登半島地震においても、米軍は、物資輸送を担うなど「トモダチ作戦」を能登でも行った。
 振り返って、東日本大震災時の大規模な「トモダチ作戦」で日米がとった共同作戦の体制は、わが国への武力攻撃事態等における共同作戦の体制に繋がるものと見られることから、それついて概観することとする。

(2)「トモダチ作戦」における日米共同作戦の体制
 「トモダチ作戦」における日米共同作戦の体制は、次の図表の通りであった。
 
図6-1 トモダチ作戦における自衛隊と米軍の共同調整(2011年)
日本側は、統合幕僚長の補佐を受けた防衛大臣の下に、陸自・東北方面総監を指揮官とする統合任務部隊・東北(JTF-TH)を編成するとともに、同じく陸自の中央即応集団(CRF)司令官が指揮する同部隊を併置した。
そして、JTF-TH司令官の下に陸(JGSDF)・海(JMSDF)・空(JASDF)の配属部隊が隷属するという形になった。
 他方、米軍側は、インド太平洋軍司令官が、統合支援部隊(JSF Command)を編成し、その指揮を太平洋艦隊司令官兼統合任務部隊(JTF)-519司令官に執らせる体制を敷いた。
 その下に、陸軍及び海兵隊から成る統合陸上構成部隊(JFLCC)、統合海上構成部隊(JFMCC)及び統合航空構成部隊(JFACC)を配置している。
 そして、防衛省及び統合・陸・海・空幕僚監部がある市ヶ谷と在日米軍司令部がある横田に共同調整所(BCC)を、また、JTF-TH司令部(仙台)と 米前方統合陸上構成部隊(JFLCC Forward)指揮所との間に共同調整所(BCC)をそれぞれ設置し、共同作戦の相互調整を行う体制をとった。
 注目すべきは、米軍の作戦体制である。
 米太平洋艦隊のコマンド・ブリフィングでは、インド太平洋軍の作戦体制は、下記の図のように説明されている。
図6-2 米インド太平洋軍の常設統合任務部隊-JTF-519の編成
JTF519編成
 
 インド太平洋軍は、あらゆる事態に対応するため、JTF-519を常設し、その司令官を太平洋艦隊司令官に兼務させている。そして、太平洋艦隊司令部(MHQ)内にある海上作戦センターで、その作戦指揮を執らせる体制をとっている。
 JTF-519は、インド太平洋軍(USPACOM)司令官の全般指揮を受けるJTF-519司令官(兼太平洋艦隊司令官)の下に、統合陸上構成部隊 (JFLCC、指揮官:第1軍団司令官)、 統合海上構成部隊(JFMCC、指揮官:第7艦隊司令官)、統合航空構成部隊 (JFSCC、指揮官:第13空軍司令官)、統合上陸群(JLG、指揮官:VMEF司令官)、統合心理作戦任務部隊(JPOTF、指揮官:第4心理作戦群長) そして統合特殊作戦構成部隊 (JFSOCC、指揮官:太平洋特殊作戦軍司令官)を置く体制をとっている。
 この際、JTF-51の副司令官には、太平洋空軍副司令官が当てられている。
 ちなみに、統合陸上構成部隊は陸軍、海兵隊及び2個MDTF(配属)、統合海上構成部隊は海軍と海兵隊、そして統合航空構成部隊は空軍、海軍航空団及び海兵航空団によって構成されている。

 つまり、「トモダチ作戦」でとった米軍の作戦体制は、名称を統合支援部隊とし、参加部隊もフル編成ではないが、基本的にJTF-519の体制で支援作戦を遂行したことになる。
 そして、今回は、災害救援活動といった、いわゆる平時任務であったが、インド太平洋軍は、常設するJTF-519をもって同任務を果たした。そのことから、「トモダチ作戦」は、日本有事における日米共同作戦のテストケースになったとの見方が有力である。
  このようにして、インド太平洋軍が、「トモダチ作戦」通じ、あらゆる事態に柔軟に対応できる実力と即応性を実際に示したことは、当該地域における紛争の抑止と対処に繋がるものと評価される所である。
なお、在日米軍司令司令部は、日米二国間の安全保障問題に関する事項の管理や日米地位協定の運用、統合・共同訓練の監督などの任務があるが、戦時の作戦統制権はなく、在日米軍はインド太平洋軍司令部から直接作戦指揮を受ける。
 しかし、自衛隊に陸・海・空自衛隊を束ねる「統合作戦司令部」が2024年度末に創設されるのに合わせ、日米の相互運用性を向上させる狙いから、作戦統制権をインド太平洋軍に残しつつ、その下で、何らかの形で在日米軍司令部の権限を強化する方向で調整が進められている。

6 日米共同訓練・演習を通じて米軍から学ぶ実戦のノウハウ
 米軍は、冷戦後、下記に示す主要な戦争や紛争に関与してきた。それらは、対テロ戦といった低強度の紛争(LIC)から湾岸戦争などの高強度の紛争(HIC)に至るまで、広範多岐にわたっており、全面核戦争を除けば、ほぼ紛争の全スペクトラムを含んでいる。
表6-3 冷戦後に米国が関与した主要な戦争・紛争
年代順期間戦争・紛争名
11991年〜1991年 湾岸戦争
21994年〜1995年 ボスニア・ヘルチェゴビナ紛争
31998年〜1999年 コソボ紛争
42001年〜2014年 アフガニスタン紛争
52003年〜2011年 イラク戦争
62014年〜(継続)対ISIS戦争
72015年〜2021年 アフガニスタン紛争
<出典>各種資料を基に筆者作成

 他方、戦後創設された自衛隊は、国連PKO(平和協力業務)への参加を除けば、実戦を経験したことが皆無である。
 その観点から、平素から日米共同訓練・演習を通じて実戦経験豊富な米軍・米軍人と「切磋琢磨」することは、自衛官にとっては大きな刺激となる。 とりわけ自衛隊にとっては、米軍から習得できる軍事システムのあり方や作戦・戦術などのノウハウは極めて貴重であり、自衛隊の防衛力整備や対処能力の向上に資するものである。

 さらに、効果的な時期、場所、規模で共同訓練・演習を実施することは、日米間での一致した意思や能力を示して抑止の機能を果たすことになり、その意義はこの上なく大きい。

 以上見てきた様に、日米共同訓練・演習は、自衛隊の防衛力整備や対処能力を向上する面で計り知れない影響を及ぼすと同時に、日米両軍が、それぞれの戦略を擦り合わせ、 作戦構想の融合を図りつつ、相互運用性と相互連携要領に習熟し、日米共同の抑止力・対処力を強化する上でも極めて有益である。
 このように、日本と米国は、日米共同訓練・演習を通じて、半世紀に近い強い絆と成果の累積という歴史的実績を共有しているのである。