『中国の野望を絶つ 日米共同作戦』
2024.04
日本安全保障戦略研究所上席研究員 樋口譲次

『考察W』 米軍は中国軍といかに戦うのか?!―米軍の作戦構想―
-構成-
1 統合レベル:「エアシー ・バトル(ASB)」構想
(1) エアシー ・バトル(ASB)J構想と「統合作戦アクセス構想(JOAC)」
(2) ASB構想に主として兵器•技術面からの可能性を付与する「第3次相殺戦略」
2 各軍種の作戦構想
(1) 陸軍:マルチドメイン作戦(MDO)とマルチドメイン任務部隊(MDTF)
ア マルチドメイン作戦(MDO)
イ マルチドメイン任務部隊(MDTF)
(2) 海軍及び海兵隊
ア 海軍:分散海上作戦(DMO)と紛争環境下における沿海域作戦(LOCE)
(ア) 分散海上作戦(DMO)
(イ) 紛争環境下における沿海域作戦(LOCE)
(ウ) 米海軍の新海洋戦略
イ 海兵隊:遠征前進基地作戦(EABO)
(3) 米陸軍と海兵隊の任務•役割分担(棲み分け)
(4) 空軍:迅速機敏な戦力展開(ACE)と広域展開基地システム(DABS)
ア 迅速機敏な戦力展開(ACE)
イ 広域展開基地システム(DABS)
(ア) DABSの概要
(イ) DABSの作戦拠点の拡大
3 各軍種の統合とMDOにおける全ドメイン一体化のためのネットワーク化
付図・付表:
図4-1 CSBA:海洋圧迫戦略(Maritime Pressure Strategy)第一列島線のインサイド‐アウトサイド防衛(概観)
図4-2 米(陸)軍のマルチドメン作戦(陸上戦ケース)
図4-3 戦域レベルのマルチ・ドメイン任務部隊(Multi-Domain Task Force, MDTF)の編成表
図4-4 米陸軍の長距離精密兵器-4つの主要計画・取組-
図4-5 米陸軍の極超音速LRHW:射程1725マイル(2775キロ)
図4-6 <米海軍>水上戦における「広域分散配置(DL)」 (イメージ)
図4-7 紛争環境下における沿海域作戦(LOCE )
表4-1 特定利用空港•港湾
図4-8 米比「防衛協力強化協定」( EDCA, 2014年)
図4-9 統合全領域指揮統制(JADC2)システム(イメージ、その1)
図4-10 統合全領域指揮統制(JADC2)システム(イメージ、その2)
<参考> *各考察等に戻る:
考察T考察U考察V考察W考察X考察Y考察Z最後に一言
主要参考文献略語(Abbreviation)解説

 米国では、大統領が「国家安全保障戦略(NSS)」を、国防長官が「国防戦略(NDS)」をそれぞれ作成し、それらに基づき統合参謀本部議長が「軍事戦略(NMS)」を作成するよう体系化されている。
 軍事作戦は、これら3つの上位戦略のうち、特にNMSを指針として統合部隊としていかに戦うかの統合作戦構想を練り、それを成り立たせるよう、陸・海•空軍及び海兵隊などが各軍種の作戦構想を案出する。 そして、各作戦構想を具体化するため、統合作戦計画実行システム(JOPES)に従って統合作戦計画とそれを支援する各軍種の作戦計画を作成し、作戦を統合的に遂行するという手順になっている。

1 統合レベル:「エアシー ・バトル(ASB)」構想
(1)「エアシー ・バトル(ASB)構想と「統合作戦アクセス構想(JOAC)」
 前述のように、中国の急速な経済発展とそれに伴う軍事力の飛躍的拡大を背景として、米 国では1990年代から中国の脅威が指摘され、戦略・予算評価センター (CSBA)やランド研究所といった有力シンクタンクから警鐘が鳴らされていた。 その中で、中国が「接近阻止 /領域拒否(A2/AD)」という軍事戦略を採用しているとの見解が示され、広く知られるよ うになった。
 その指摘は、米国の戦略態勢が、冷戦間の「前方展開型態勢」から冷戦後の「戦力投射型態勢」へ移行してきたことと大いに関係している。後者は、中国などのA2/AD能力の脅威 から部隊を防護するため、 その脅威の外に部隊を移転させようとするものだ。しかしその結 果、紛争発生時に部隊を戦場へ再展開するためのアクセスにリスクを生じることから、将来 の敵は展開した後の米軍と戦うより、その前段階の展開中の米軍の弱点を衝いて 「接近阻止 (A2)Jで撃退し、それでも領域へ侵入してきた部隊には「領域拒否(AD)」で侵入を排除すると考えられたからである。

 米国防省は、2010年5月に発表した「4年毎の国防計画の見直し(QDR2010)Jで、はじめて「エアシー ・バトル(ASB)」構想に言及した。
 前述の通り、ASBは、日本語で「海空戦」と訳されるように、海軍と空軍の戦力を中心とした戦い方であり、もともと米インド太平洋軍は、最も利用者の多い国際海上航路があり、 世界の全海洋面積の約66%を管轄する地政戦略特性を踏まえ、主として海戦に備える海・ 空軍重視の戦力構成を採ってきた。
 一方、ロシア(ソ連)の地上軍の侵攻に対峙するNATO •欧州米軍が「エアーランド・バ トル(ALB)J構想と言われる陸軍と空軍を中心とした「空地戦」の態勢を採ってきたことに比べると極めて対称的である。 このようなインド太平洋正面と欧州正面の戦略態勢の相違は、両戦域の地政戦略的特性に立脚しているのは明らかである。
 また、2012年1月には「統合作戦アクセス構想(JOAC)Jが発表された。JOACは、将来の統合戦力が中国のA2/AD能力の脅威をいかに克服するかという課題を取り上げ、将来 の戦力を整備するための指針を示すものであった。 その中心的な考えは「領域横断的な相乗作用(Cross Domain Synergy)」というもので、 陸・海・空・宇宙•サイバー領域(その他電子戦領域も含まれる)の中から、状況に応じて幾つかの領域で優位を得て、 それによって他の領域での脆弱性を相殺し、任務達成に必要な アクセスと行動の自由を得ることである。
 そのJOACの指針に沿って、2013年5月に統合参謀本部に置かれたASB室が公表したのが「ASB」構想(要約版)であり、これが公式の見解となっている。
 ASB構想の中核となる考え方は、A2/AD環境下における攻撃の抑止および打破 (QDR2010)を目的とし、「ネットワーク化された、統合化された、縦深攻撃により、敵を混乱させ、撃破、掃討あるいは駆逐する」とされた。
 その作戦は、概ね次の2段階から構成されている。
 第一段階は、中国の第一撃を避けるため米海・空軍を第2列島線以遠へ退避させると同時に、中国軍のC4ISRなどを麻痺させる盲目化作戦と潜水艦を撃破して水中を支配する水中作戦を遂行する。
 第二段階は、継続的に実施される盲目化作戦と水中作戦の成果を拡大しつつ、態勢を整え て反撃攻勢に転じ中国海・空軍を撃破するフェーズへと移行する。
 このように、ASB構想は、当初、二つの段階を踏んだ時間的・空間的な広がりを持つ「懐 の深い作戦」「長期間の作戦」を想定していたと見られる。
 しかし、第2章で述べた通り、特に第一段階の作戦で「中国の第一撃を避けるため米海空 軍を第2列島線以遠へ退避させる」のでは、中国軍に一方的に主導権を奪われ、米軍は劣勢に立たされることになる。
また、同盟国におけるプレゼンスの低下や米軍の来援•介入の可 能性あるいはその遅延に対する懸念によって同盟関係の信頼感を損ねるなどの問題が浮上した。
 そこで、このような問題を克服する必要性から、様々な議論を経て、あくまで海上優勢・ 航空優勢を獲得し、戦略的優位性を維持するとした積極的な戦略を採用することになり、併行して、作戦の考え方も見直し・修正が図られて行くことになる。

 その後、2015年1月に、米国防省がASB構想を「グローバル・コモンズにおけるアクセスと機動のための統合構想(JAM-GC)」に改称したことが報じられた。
 その詳細は、公式には明らかにされていないが、JAM-GCの立案に関わった軍人らの論 文によれば、JAM-GCはASB構想の基本的な考えの上に築かれているが、その課題は、A2/AD能力など、 軍事的脅威がより複雑かつ高度化し、急速に拡散する時代において、グ ローバル・コモンズにおける米軍の行動の自由のための作戦上のアクセスを獲得し維持することにあるとされている。
 これは、中国のみならず、ロシアやイランなどのA2/AD能力の強化に伴う脅威の拡大を 想定していることが覗える。その上で、これらのグローバルに広がった作戦環境下における 将来の統合戦力が兼ね備えるべき条件として、 広域での分散•機動性、敵の攻撃による損害 回避と急速回復などの強靭性、柔軟で容易な指揮・統制・運用が可能な部隊の適合可能性、 作戦規模の拡大に耐えられる態勢の構築、そして安定した兵站補給などの持久性が挙げら れている。
 また、前掲のJOACが述べたように、米軍の作戦能力を強化するためには、海・空だけでなく、陸、宇宙、サイバーを含む全ての作戦領域における統合が必要であると強調されている。 さらに、グローバル・コモンズへの自由なアクセスに関心を共有する同盟国・友好国の協力も重要であるとし、それらの国との相互運用性を向上させていくことが、この作戦構 想の基本的な考えだとしている。

(2) ASB構想に主として兵器•技術面からの可能性を付与する「第3次相殺戦略」
 相殺戦略(Offset Strategy)は、中国のA2/AD戦略への対処を念頭に「米国の優位な技 術分野を更に質的に発展させることにより、ライバルの量的な優位性を相殺しようとする戦略」である。
 2014年にCSBAのロバート・マーティネジ(Robert Martinage)元海軍省次官が発表 した論文「新たなオフセット戦略に向けて:米国の世界的な戦力投射能力を回復するための 米国の長期的優位性の活用(Toward a New Offset Strategy : Exploiting U.S. Long-Term Advantages to Restore U.S. Global Power Projection Capability)がその発端である。
 この論文は、国防省のロバート・ワーク(Robert Work)国防副長官が長として検討を 進めた「国防イノベーション構想(DID」、すなわち「米国が長期的に優勢を維持する方策を追求する構想」に影響を及ぼし、 2014年11月、チャック・ヘーゲル国防長官が「国防イノベーション構想(D1I)」を発表するに至ったものである。
 その中で、ヘーゲル長官は「戦争遂行のカギとなる領域における米国の優位が侵されつつ あり、我々は限られた資源で現在の優位を維持拡大する新たな創造的手段を発見する必要がある」とし、 「国防省すべてにわたる業務を改善し、21世紀におけるわが軍の優越性を革 新的な方法で維持・進化させるために、省を挙げたイニシアティブを設立する」と述べてい る。
さらに、次のように言及し、この取組みが「第3相殺戦略」 へと発展することへの期 待感を膨らませた。
 
 この21世紀の挑戦については歴史が教訓を示している。米国は1970年代および80 年代に通常戦力によるネットワーク化された精密攻撃、ステルス、監視手段を開発して安全保障環境を変化させた。
 今次の取り組みは、将来における米国の戦力投射に関 する優位性を強化する第3次相殺戦略と呼ぶことになるだろう。

【コラム】米国の相殺戦略(Offset Strategy)
 相殺戦略とは、「米国の優位な技術分野を更に質的に発展させることにより、ライバルの 量的な優位性を相殺しようとする戦略」である。第1相殺戦略は、 1950年代のアイゼンハワー大統領によるニュー ・ルック(New Look)といわれる核による大量報復戦略であり、第2次相殺戦略は1970年代末〜80年代のハロルド・ブラウン国防長官が提唱した 通常戦力の質的優越(ステルス爆撃機(F-117. B-2)、精密攻撃兵器、改善型C4ISRな ど)を目指したものである。
⟨出典⟩各種資料を基に筆者作成

 新規開発ドクトリンとしての「第3相殺戦略」は、中国のA2/AD戦略に対抗して「敵(中 国)の有する能力と異なる新たな分野の軍事技術の開発を通じて非対称的な手段を獲得し、技術上および軍事作戦上の優位性を保持して相手の能力を相殺(抑止ないしは無効化)する戦略」である。
 そして、中国軍のA2/AD能力が今後さらに進化していく状況下において、米国が長期にわたって維持すべき優越分野として、次の5項目を提示している。

@ 無人機作戦(Unmanned operations)
A 長距離航空作戦(Extended-range air operations )
B ステルス航空作戦(Lowobservable air operations)
C 水中作戦(Undersea warfare)
D 複合化システム・エンジニアリングと統合(Complex systems engineering and integration)

 その具体的な兵器・技術については、次のようなものが挙げられている。

•厳しい環境下でも相手の領土深くに侵入できる高高度長期滞在無人航空機(RQ-4グローバル・ホーク後継のステルス機)
•空母の甲板から発着する高い機動性とステルス性を備えた艦載無人攻撃機システム(MQ-X や N-UCAS)
•相手に察知されないように侵入し領土の奥深い目標を正確に攻撃できるステルス長距離打撃爆撃機(LRS-B)
•陸上に対する攻撃能力を高めた潜水艦
•敵の弾道ミサイルに対する地域防衛やミサイルによる飽和攻撃に効力を発揮する電磁レールガンや高出力レーザー兵器
•外部からの攻撃に対する復元力が強い小型衛星で構成する通信監視システムなど 

 ASB構想には、中国内陸深くにある目標を打撃する能力や中国軍のミサイルの飽和攻撃 に適切に対処できる能力などに問題があると指摘されてきたが、前記の兵器・技術はASB 構想のもつ問題点を解決できるものであり、今後、開発の進展によっては大きな変革をもたらすことになろう。
 このように、米国は、中国を主対象として技術的優位な5分野を中心に、第2相殺戦略の 延長線上で質的発展と新たな改革を進めることによって「通常戦力の優越」を確保することに戦略の重点を置いているとみられる。
 そのためには、兵器・技術分野のブレイク・スルーだけでなく、同時に制度•組織(シス テム)•概念における革新的進展、少ない資源でより大きな戦略的効果を得る新たな運用構想の開発、 兵器の運用や技術の使用に当たる部隊のリーダーや管理者を育成・開発するため の統合的方策などについて、併せて取り組むことが求められることになる。

 以上を踏まえた米国の統合作戦構想は、同盟国・友好国と協力して第1列島線上にA2/AD 能力を構築して中国の当該地域へのアクセスを拒否し、西太平洋における軍事的攻撃の企てが失敗に帰することを悟らせ紛争を抑止することにある。 万一、抑止に失敗した場合は、 A2/AD能力を最大限に発揮して中国の海洋進出を破砕するものである。
 本構想は、米国防省に最も近いと見られているシンクタンクCSBAが提示した「海洋圧迫戦略(Maritime Pressure Strategy)」のイメージ図を引用するのが最も理解しやすいので、参考のためにこれを例示する。
図4-1 CSBA:海洋圧迫戦略(Maritime Pressure Strategy)
第一列島線のインサイド‐アウトサイド防衛(概観)
CSBA:海洋圧迫戦略(Maritime Pressure Strategy)第一列島線のインサイド‐アウトサイド防衛(概観)
このイメージ図を見ると、日本から台湾そしてフィリピンへと連なる第一列島線国あるいはその周辺島嶼に米陸軍と海兵隊が展開し、対艦・対空ミサイルなどをもって中国海・空 軍の海洋侵出を阻止する壁(バリアー)を構築している。
 そして、第1列島線沿いに形成さ れた防空網の掩護の下、太平洋側に米海・空軍が展開し、長距離精密兵器によって作戦を行う態勢を取っている。これらをアウトサイド部隊と呼んでいる。

 第1列島線の中国(東シナ海・南シナ海)側には、移動式地上配備の対艦•対空ミサイル などのためのセンサーや通信中継として、無人機あるいは無人水中艇が展開し、 この前方地 域ではステルス爆撃機と潜水艦や機雷による水中戦が主役となって多様な作戦を遂行する 態勢を示している。これらをインサイド部隊と呼んでいる。

 このように、米国の軍事作戦のグランドデザインを予め視覚的に概観しておくことで、こ れから説明する米軍の作戦構想を理解する上で、大いに役立つものと考える。
 以下、米国の統合作戦構想を支援する各軍種の作戦構想について、順次説明する。

2 各軍種の作戦構想
 前章で述べたように、米国は、中国のA2/ADに対抗し、その軍事戦略で、海上優勢と航空優勢を獲得して戦略的優位を維持する、として積極的な対中戦略を採ることとなった。
 そのため、各軍種の作戦構想は、中国のA2/AD能力の脅威を回避しつつ作戦を継続する 必要性から、広域の「分散」と「機動」、それを「統一」して戦力発揮するための「ネット ワーク化」が基本的方策として取り上げられた。
 一方、日本の陸上自衛隊は、南西諸島地域に、島噸警備部隊を基盤とした対艦能力(ミサ イル)と対空能力(ミサイル)を配備して中国軍の侵攻を阻止・撃破する態勢をとっている。
 それに着目したハリス米インド太平洋軍司令官(当時)は、「陸上自衛隊に学べ」「船を沈 めよ」との大号令を掛けた。このことは、2023年7月に来日したミリー統合参謀本部議長が、  台湾には防空システムや地対艦攻撃兵器(ミサイル)が必要であると指摘したことと軌 を一にしている。  両氏とも、第1列島線沿いに対艦•対空ミサイル網を構築する重要性を強 調しているが、その主旨は、言うまでもなく、中国軍の着上陸(水陸両用)侵攻を無力化する能力が不可欠条件であることを力説したものである。
 れらを踏まえ、各軍種は、統合作戦構想を支援する作戦構想を、それぞれ開発した。

(1) 陸軍:マルチドメイン作戦(MDO)とマルチドメイン任務部隊(MDTF)
 統合作戦構想やインド太平洋軍司令官の指針などの具体化に対する米陸軍の答えは、マルチドメイン作戦(MDO)とマルチドメイン任務部隊(MDTF)である。
 陸軍は、海兵隊とともに第1列島線国に展開し、同盟国・友好国の領土防衛に寄与するとともに、主として対艦•対空ミサイル等によって中国海・空軍の侵出を阻止する。

ア マルチドメイン作戦(MDO)
 JOACの中心的な考えとして前掲した「領域横断的な相乗作用(Cross Domain Synergy) 」などの構想を受け、陸軍は2017年12月、「マルチドメイン・バトル:21世紀のための諸 兵科連合の進化 2025-2040 (Multi-Domain Battle : Evolution of Combined Arms for the 21st Century 2025-2040)」を公表した。 2018年12月には、それを更新する形で「マル チドメイン・オペレーションズ2028における米陸軍(The U.S. Army in Multi-Domain Operations 2028) 」を発表した。
 MDOは、統合参謀本部の統合作戦構想として正式に位置付けられたものではないが、その主眼は敵のA2/AD能力への対処であり、前述のJOACやJAM-GC、あるいは第3次相 殺戦略などと密接な関係性を有するものである。 その意味において、いわゆる陸•海・空軍 及び海兵隊など全ての軍種間をカバーする統合作戦構想の一っと呼んでも過言ではない。
 MDOは、一般的に、陸上、海上、航空に加え、宇宙、サイバー、電磁波(電子)といっ た新たな領域を含めた多領域(マルチドメイン)作戦のことをいい、 すべての作戦領域(ド メイン)における能力を横断的・有機的に結合し、その相乗(シナジー)効果により全体としての能力を増幅させることを目指した作戦のことである。
 米陸軍のMDOは、次図に示すように、同軍が他の軍種と密接に一体化した統合作戦を行 うことを前提に、全ドメインを糾合して、どのように戦うかを描くもので、 その目的は、2018年のNDSに規定された統合戦力の任務(中国とロシアによる侵略の抑止及び打倒)に対し、米陸軍がどのように貢献できるかを示すことである。
     図4-2 米(陸)軍のマルチドメイン作戦(陸上戦ケース)
マルチドメン作戦

 その脅威認識については、陸軍省発行(陸軍参謀総長署名)の「米陸軍のマルチドメイン変革:競争と紛争における勝利への備え」(2021年3月16日)に詳しく述べられている。
 同文書では、次のように記述している。
 
 中国とロシアは、・••全ての国力の手段•方法を兵器化する。これにより、紛争と平和の境界線が曖昧な、構造化されていない国際環境へ導いている。
 中国とロシアが軍隊の 近代化を進める中で、米統合部隊は、そのような国々の不法で攻撃的な行動を抑止することが、ますます困難となる。
 我々の敵対者は、我々の強みを弱体化させ、弱みを利用するために、非対称的なアプローチを開発してきた。その最も顕著な例が、米国が軍事力を投射できないようにするためのA2/AD能力に彼らが投資していることである。 技術の進歩により、宇宙、サイバ ー、情報、電子戦能力の統合が可能になり、米国の戦力投射を未然に止めることが可能となった。  

 こうした論述の背景には、2014年のロシアによるクリミア併合とウクライナ東部への軍 事介入で見せた「ハイブリッド戦」や、2010年代に顕在化した中国による海上民兵を用いた南シナ海の岩礁埋め立て•人工島造成•軍事基地化に見られる 「サラミスライス戦術」や 「キャベツ戦術」による、他国領土の支配と既成事実化が念頭にあると考えられる。
 つまり、中露は、外交的•経済的工作や非軍事的手段と情報戦(フェイクニュース、ナラ ティヴ(作り話)、プロパガンダ、サイバー攻撃など)、及びA2/AD能力の強化などによる軍事的手段の脅迫的使用または実際の使用などを複合的に運用して、 膠着状態を作り出 し、「戦わずして勝つ」、すなわち武力紛争の敷居以下での目標達成を優先的に追求してい る。そして、武力紛争に至らない争いから武力紛争に至るまで、米国が手を出せない状況を 作為し、国家目的を達成しようとしているとの認識を示している。
 そのため、前掲文書では、中国とロシアを念頭に、今後の世界を「大国間競争の時代」と 位置付け、断固たる決意を保持する敵対者と加速する技術の進歩に直面する中で、米陸軍は明日の課題に対応するため、 今日において変革しなければならないとし、「マルチドメイン 陸軍」とのキャッチコピーを用いて大胆な変革の重要性を強調している。
その上で、次のような陸軍の展望を述べている。
 
 2035年のマルチドメイン陸軍は、統合用兵(joint warfighting)に変革をもたらす。
 2035年までに米陸軍は、必要とされる時点においてスピードと火力で相手を圧倒する マルチドメイン能力による適切な戦力態勢で、競争から紛争に至るまで、米統合部隊が 機動し勝利することを可能にする。
 競争間における米陸軍の動的な運用と態勢は、複雑 なA2/ADシステムを突破するための縦深にわたる火力を提供し、クロス・ドメイン効果ーすなわち、紛争を抑止し、エスカレートさせず、あるいは最初の戦闘に勝利するための機会の創出と選択肢を提供する。
 米陸軍の態勢と能力は、物理的にも認識的にも必 要なスピードを提供し、より速いペースで、分散し、かつ複雑な作戦環境に必要な、決心の優位性を実現する。マルチドメイン陸軍は、米統合部隊が国家主体を倒すために必 要な、一体化した会戦に闘って勝利するための条件を作為する。
 この展望は、米陸軍が中露のA2/ADシステムに対抗するためMDOの態勢と能力を整備 すること、それをもって統合用兵に変革をもたらし統合作戦の勝利に寄与すること、そして、マルチドメイン陸軍は平時の競争から危機対応、 紛争に至る全スペクトラムにわたって統 合全ドメイン作戦(JADO)を支え、統合部隊の任務達成に不可欠の重要な役割を果たすことを示している。  

 そのため、MDOは、次の3つの原則に基づいて米陸軍を進化させる必要があるとする。

 第一は、戦力態勢の調整であり、前方展開部隊(同盟国の部隊を含む)と米本土からの遠 征部隊などの適切な組合せ・運用が重要であること
この際、MDOは、前方展開戦力の維持が、有事における統合戦力の諸活動を可能とする ための基礎的な要素であるとし、例えば、同盟国との緊密な連携、情報収集•分析、心理戦、特殊部隊による作戦など、 武力紛争に至らない争いから武力紛争に移行する期間において、 前方展開戦力が果たす役割の重要性を強調している。
 第二は、マルチドメインの組織編成であり、自立性、冗長性(予備能力•手段による重複 性)、分散性による作戦を継続する能力、そして領域横断的な火力の装備、人材の育成を重視すること
この際、米陸軍の近代化の目玉として、マルチドメイン任務部隊(MDTF)が挙げられる。 この件については、次の項で詳しく述べることとする。
 第三は、能力の結集であり、あらゆる作戦領域における能力の素早く、かつ連続的に統合 すること、であるとしている。
以上は、米陸軍が取り組んでいるMDOの概要である。

 一方、MDOに関する軍種間で 共有されるビジョンはいまだ不十分であり、国防省ではMDOの統合ドクトリンと戦闘構 想が必要であるとの指摘もなされている。
 そのため、米議会調査局の報告書「陸軍のマルチドメイン作戦(MDO) J (2024年1月2日)によると、統合参謀本部は「統合軍の戦略的方向性と国防省の機能に関する基本 的なドクトリンを提供する」として、Joint Publication (JP)1Volume1,Joint Warfightingを出版し、 統合用兵構想(JWC)(案)の主要事項について、次のように示している。 •統一 ・協同した統合部隊(Integrated, Combined Joint Force):すべての戦闘領域に わたるすべての軍種等をシームレスに統合し、統一された軍隊として機能させること •拡大的な機動(Expanded Maneuver):陸、海、空、宇宙、サイバー、電磁スペクト ル、情報空間、認知領域など、空間と時間を流動的に機動すること ・脈動する作戦(Pulsed Operations):敵に対する優位性を生みだしたり、利用したり するために、統合戦力を意図的に適用することを特徴とする全領域統合作戦の一つ 
• 一体的指揮と迅速な統制(Integrated Command, Agile Control):すべてのドメイン にわたるシームレスな指揮統制(C2)により、センサー、プラットフォーム、意思決定プロ セスを統合すること
•グローバルな火力(Global Fires):運動系火力と非運動系火力を統合し、すべてのド メインにわたって正確で同期されたグローバル効果を実現
•情報の優越(Information Advantage):高度な技術を使用した情報の迅速な収集、分 析、および配布
•靭強な兵站(Resilient Logistics):運用要件に応じて、人員と装備・器資材を迅速に移 動し、早期に戦力を回復すること

MDOは、前述の通り、公式の統合作戦構想ではないが、それに準ずる地位にあり、した がって、今後、前掲JWC (案)に沿い、全軍種間の共有ビジョンとして確立し、進化させ ていくことが統合作戦遂行上の大きな課題となろう。

イ マルチドメイン任務部隊(MDTF)
米陸軍のMDOにおける近代化の中心組織はMDTFであり、改革の目玉である。その組織編成は、次図の通りである。
図4-3 戦域レベルのマルチ・ドメイン任務部隊(Multi-Domain Task Force, MDTF)の編成

 MDTFは、戦域レベルの機動部隊として設計されたものであり、敵のA2/ADネットワー クの全てのドメインに対して、精密効果と精密射撃を同期して及ぼすことができ、それによって統合部隊が作戦計画で示された任務を遂行し、行動の自由を確保することを可能とする。 また、MDTFは、戦域レベルから戦略レベルまでの拡張性を持ち、統合部隊司令官の要求に応じてカスタマイズすることが可能である。

 現在、米陸軍は、5個のMDTFを整備目標としている。そのうち、すでにインド太平洋 に2個、欧州に1個の計3個MDTFを配置しているが、インド太平洋にもう1個配置する予定で、 他の1個は米中央軍の戦域(中東)に配置される可能性が高い、とウォーマス米陸 軍長官の発言として伝えられている(Defense Newss 2024年2月28日付)。
 このように、MDTFの戦力配分に当っては、インド太平洋が重視されている。

 次に、前掲MDTFの組織編成を参照しつつ、MDTFの細部の編成装備について具体的に見ていくこととする。

 *I2CEWS (諜報、情報、サイバー、電子戦、宇宙)大隊は、2個のMI (軍事情報)中隊、 各1個のSIG (通信)、ERSE (長距離センシング•影響)及びINFODEF (情報保全)中 隊から編成されている。諜報戦、情報戦、 サイバー戦、電子戦及び宇宙戦を遂行するとともに、SF (戦略砲兵)大隊及びAD (防空砲兵)大隊の作戦を支援する。
 *SF (戦略砲兵)大隊は、HIMARS (高機動ロケット砲システム)中隊、MRC (中距離能 力)中隊及びLRHW (長距離極超音速兵器)中隊から編成されている。 いずれの中隊も、INF禁止条約で禁じられていた中距離(500-5500 km)の地対地ミサイルを装備し、敵の防空・野戦砲兵や弾道ミサイルシステム、指揮統制組織などを目標に長距離精密射撃を行うことができる。

   チャールズ・フリン米太平洋陸軍司令官(陸軍大将)は2024年4月、在日米大使館でー 部メディアの取材に応じ、「中距離(ミサイル)能力を持つ発射装置が、間もなく、(アジ ア太平洋)地域に配備される」と述べた。
 当該兵器は、中距離ミサイル能力システム(「戦略中距離火力システム」へ改称)を指すと見られ、射程は約1800キロである。
 米陸軍の長距離精密火器の概要は、次図に示す通りである。
図4-4 米陸軍の長距離精密兵器-4つの主要計画・取組-

【コラム】高機動ロケット砲システム(HIMARS : High Mobility Artillery Rocket System)
 HIMARSは、6輪装輪式車両の車体後部の発射装置に射程150km (キロ)のGPS誘導口 ケット弾「ER-GMLRS」6発や、300キロの射程を有する「ATACMS (陸軍戦術ミサイル システム)」1発を搭載することができる。
 従来の多連装ロケットシステム(MLRS)と比 ベて重量は約半分の10.9トンで、C-130輸送機で空輸できるが、CH-53重輸送ヘリコプ ターでの吊り下げ輸送はできない。運用上は、機動性に富んでおり「攻撃即離脱(ヒット・ アンド・アウェイ)」に特性がある。
 なお、米陸軍は、HIMARSから発射できる地対地・全天候型の精密打撃ミサイル(PrSM : Precision Strike Missile)を開発しており、射程は500キロ以上(約650キロ)で、1000 キロ以上に延伸するとともに、発射機当たり2発のミサイルを搭載して発射速度を倍増する計画である。
 <出典>各種資料を基に筆者作成

 そのうち、LRHW (長距離極超音速兵器)は、射程が2776キロと推定されている。グアムに配置しても中国大陸を射程圏内に収めることはできないが、第一列島線、例えば日本の 九州、台湾、 フィリピンに配置すれば、中国大陸の主要エリアをカバーすることができ、中国にとって大きな脅威となるのは確実である。
図4-5 米陸軍の極超音速LRHW:射程1725マイル(2775キロ)

•AD (防空砲兵)大隊は、暫定機動近距離防空システム(IM-SH0RAD)などの間接火力 防護能力(IFPC)を装備すると見られ、防空(AD)及びミサイル防衛(MD)に従事し、 敵航空機や弾道•巡航ミサイルを撃墜し、我が作戦空域への侵入を阻止して統合部隊を防護 するとともに、航空優勢を獲得して行動の自由を確保する。

• BS (旅団支援)大隊は、MDTFの後方支援部隊であり、同構成部隊に対し、整備や輸送、 補給などの兵站支援を行う。

以上述べたように、MDTFは、自らMD0を遂行する手段を保持し、敵のA2/AD能力を 混乱、撃破、破壊し、そのネットワークを無力化して、統合作戦における行動の自由を可能にする能力を有している。

(2) 海軍及び海兵隊
 米海軍及び海兵隊が、主として中国を睨みつつ、敵のA2/AD戦略に対抗し、これを撃退して海上優勢を確保しようとする作戦は、海軍による「分散海上作戦(DM0)」、海兵隊による「遠征前進基地作戦(EAB0)、 そして海軍と海兵隊が協同して行う「紛争環境下にお ける沿海域作戦(LOCE)」に代表される。
 海軍は、空軍とともに「エアシー ・バトル(ASB)J構想の中心的役割を果たし、長距離精密攻撃や水中戦によって中国の海・空戦力やC4ISR、継戦基盤などを撃破して防衛作戦の目的を達成する。
 前記3つの作戦については、米海軍作戦部長マイケル・ギルデー (Michael Gilday)大将が「海上優勢を維持するための構想(A Design for Maintaining Maritime Superiority) 」 を発表し、その中の「将来の海軍構築(Future Navy)」という項目において、目標として掲げたものである。
 以下、これらを中心に、その概要を説明する。

ア 海軍:分散海上作戦(DMO)と紛争環境下における沿海域作戦(LOCE)
(ア) 分散海上作戦(DMO)
 分散海上作戦(DMO)については、2015年にその前身となる「広域分散配置(DL)」という考えが提起されている。同構想は、米海軍水上部隊司令官トーマスS・ ローデン(Thomas S. Rowden)中将を始めとする3人の将官によって、 水上部隊を広域に分散配置(Distribute) することで、致死性(Lethality)、すなわち残存性と攻撃力を高めことが提唱されたものである。
 これは、A2/AD能力を急速に強化する敵の脅威に対して制海権(SC)の確保を巡る懸念が広がる中で、同環境下における作戦空間の支配を取り戻すために、水上部隊の作戦を 再構築し、SCを維持する必要に迫られたからである。
 これに関連して、ローデン司令官は2017年、「水上部隊戦略ー制海への回帰(Surface Force Strategy-Return to Sea Control)J を発表している。
 「水上部隊戦略」は、中国などによるA2/ADの脅威が拡大する中、「我が国(米国)の シーパワーの優位性を失うわけにはいかない」(括弧は筆者)との強い決意を示し、 「海 上および海上からの海軍力の強化」という呼びかけに応えて、制海権への復帰を目指す DLの実施により、SCを意のままに達成し維持するための運用上および組織上の原則として説明している。
 その狙いは、水上部隊の艦艇を広範囲に分散配備し火力を分散することによって、敵の探 知及びターゲッティングに対する艦艇の脆弱性を低下させるとともに、部隊の致死性を高 め、 その結果、部隊の攻撃•防御能力が向上して必要な時間•場所でのSCを達成する、と いうものである。そして、「制海権は、海軍としてやらなければならないすべてのことの前 提条件である」ことを強調している。
 このように、DMOは、DLなどが提唱された経緯を踏まえ、それらの考えを進化•発展 させる形で開発されたものである。その作戦イメージは、次図の通りである。
図4-6 <米海軍>水上戦における「広域分散配置(DL)」 (イメージ)
 このように、DMOの主要な目的は、中国のA2/ADシステム、すなわち米海軍の水上艦 艇や航空機を探知・攻撃する能力に対抗する米海軍(水上艦艇)の能力を向上させることである。
 そのため、DMOは、中国のA2/ADシステムの射程内にある海域で米海軍が効果的に活動できるよう、分散(distribution)、統合(integration)、機動(maneuver)の原則を組合わせ、我が選択した時と場所で圧倒的な戦闘力と効果を最大に発揮する作戦構想である。

 迎撃・探知される確率の低いネットワークを用い、広域に分散したプラットフォーム、兵器、システム、センサーを統合することで、敵の偵察活動を複雑化させ、又そのセンサー及 びミサイル能力の優位性を低減させながら、 我の戦場認識(battlespaceawareness)を向上させる。
 そして、すべてのドメインを横断した機動力を通じて複数の場所・方向から敵を攻撃するよう戦闘力の適用を行うことで、我は不確実性を利用して奇襲を達成することができるとしている。
 この際、DMOの実効性を高めるため、長距離兵器や無人艦艇、無人航空機をさらに活用するとしている。

(イ) 紛争環境下における沿海域作戦(LOCE)
 米海軍作戦部長及び海兵隊司令官は2017年9月、非機密版の「LOCE白書」を公表した。本白書は、「新たな脅威を踏まえた沿岸環境における海軍の作戦」について記述しており、  海軍と陸上・海上における海兵隊の能力を活用したSCの戦いとその獲得を主題として、 海軍と海兵隊のイノベーションのための統一的な枠組みを提示しているものである。
 LOCEは、海軍と海兵隊が混成で沿岸域戦闘群(LCG)を編成し、いまだ敵との紛争下にある沿海域に進出して局地的なSCと戦力投射を達成するための両軍の統合作戦構想である。 DMOによって、敵海軍の戦闘力を減殺し、同国沿海域への後退を余儀なくさせた段階での発動が予期されているものと見られる。
 この際、沿海域(Littoral)とは、陸上における作戦を支援するため外洋から海岸までを制海し、海岸から内陸までを占領支配するため海上から直接支援できる、そのような地理的範囲を含んでおり、DMOの成果を沿海域まで拡大して作戦目的を達成することにある。
 その作戦イメージは、次図の通りである。
図4-7 紛争環境下における沿海域作戦(LOCE)

 この図は、衛星に支援された海軍の艦艇•航空機等と各島噸に配置された海兵隊のセンサ一、兵器のプラットフォーム及び後方支援拠点の統合ネットワークが、 敵による海空域の使 用を拒否し、敵の沿海地域のチョークポイント及びシーレーンをコントロールする方法を示している。
 LOCEに必要な基本的能力としては、「情報」就中、沿海域の作戦環境を解明するインテ リジェンス、「指揮統制」、「火力」、「展開と機動」、「防御」及び「継戦能力」の6項目が挙げられており、引き続き、その能力の強化が図られるものと見られる。





(ウ)米海軍の新海洋戦略
 さらに、米海軍は2020年12月、新海洋戦略「海洋における優位:全ドメインを統合した海軍力で戦う(Advantage at Sea : Prevailing with Integrated All-Domain Naval Power )」を発表した。  同戦略は、米国の海洋3サービスによる統合戦略であり、海軍と海兵隊に 沿岸警備隊(CG)を加えた全海洋戦力での対処あるいは戦いを追求するものである。
 本戦略は、日常的な競争(competition)、危機(crisis)の高まり、そして武力紛争(conflict) を連続体(continuum)として俯瞰し、各段階での海洋3サービスの果たす役割を明示し統合された海軍力として対応することを目指している。
 海軍及び海兵隊に沿岸警備隊を加えたことによって、特に中国を対象とした「グレイゾーン事態」における日常的な競争(day-t〇•day competition)に打ち勝つことに重点を置き、 そのため、同盟国や友好国、他の米国機関、そして多国籍グループとの連携を深めるとともに、国際社会への情報発信の重要性を強調している。
 日常的な競争(competition)の段階では、沿岸警備隊の法執行機関としての権限・活動 を軍に統合する。その上で、沿岸警備隊は、(中国の)強圧に対抗できない多くの国の海上 保安組織のパートナーとなり、 また、法執行、漁業保護、海上安全、海上保安といった独自の権限を、海軍と海兵隊の能力に統合し、協力(cooperation)と競争(competition)の面 で統合部隊指揮官に能力を提供できる選択肢を拡大する。
 危機(crisis)の段階では、沿岸警備隊は、海上での睨み合いを非暴力的にコントロールすることとし、海軍と海兵隊は、目に見える戦闘態勢を示威して、抑止とミサイル防衛態勢を強化する。
 武力紛争(conflict)の段階では、DMO、LOCE及びEABOの各コンセプトを軸に沿岸 警備隊と統合連携して作戦を行う、としている。
 この戦略は、日本にとっても極めて示唆的、教訓的である。米国と同じように、自衛隊と 海上保安庁が統合戦略を策定し、平時、危機そして武力紛争の各段階を通じて、 それぞれの役割分担を定め、一体となってわが国の安全保障•防衛の任務・役割を果たす体制あるいは 仕組み作りが急務であることは言うまでもない。

イ  海兵隊:遠征前進基地作戦(EABO)
 EABOは、LOCEと同じように、DMOをサポートする構想である。  EAOBは、敵が優位にある地理的位置や兵器の射程、精度、能力に関する問題に対処するための作戦コンセプトであり、主要な海上地形 (key maritime terrain)において我の機動力を向上させ、制圧力を発揮することでチャンスを創出するものである。  これは、海兵 隊と海軍の能力を完全に統合することで、海洋拒否(SD)と制海(SC)および艦隊の維持 を可能にするものである。
 米国議会調査局による報告書「海軍軽水陸両用艦(Navy Light Amphibious Warship (LAW) Program: Background and Issues for Congress ) 」 (2021.4.1)によると、 EABO の任務は、@制海(SC)作戦の支援、A沿海域内での海洋拒否(SD)作戦の実施、B海洋状況把握への寄与、C前方でのC5ISRT及び対C5ISRT能力の提供およびD前方戦力維持の提供となっている。

【コラム】制海(SC)、海洋拒否(SD)、海上優勢(MS)とは
 •制海(SC):指定された地域で、指定された期間、我の目的のために海洋を使用し、必要に応じて、 敵に海洋の使用を拒否したり制限したりする行動の
  自由を持っている状態。制海 には、水面上の空域と、水面下の水中及び海底が含まれる。
 •海洋拒否(SD):海洋の使用を我が確保するには十分でない戦力で、敵に対して海洋の使 用を部分的にまたは完全に否定すること。
 •海上優勢(MS):我の敵に対する優位性の度合いをいい、我とそれに関連する陸•海(含む 海兵隊)•空軍が所定の時間と場所で、敵による干渉を受けるこ
  となく、海上作戦を実施することを可能にする状態。
⟨出典⟩米国の新海洋戦略「Advantage at Sea:Prevailing with Integrated All-Domain Naval Powerjの巻末に出てくる用語の解説を筆者が一部補正

 また、EABOの果たすべき細部の役割として、次の10項目が挙げられている。
 @ 監視・偵察の実施
 A 情報環境下における作戦の実施
 B 遮蔽・警備・掩護の実施
 C 重要海域の拒否・支配
 D 陸上作戦の実施
 E 防空・ミサイル防衛(AMD)の実施
 この役割に基づき、海兵隊防空統合システム(MADIS)を構築する。これは、海兵隊型アイアンドーム(Iron Dome)と言われている。
 F (敵艦艇)打撃作戦の実施
 G 対潜水艦戦の実施
 H 戦力維持作戦の実施
 I 前方弾薬補給•再給油作戦の実施

 EABOにおける具体的な行動は、小規模の海兵隊部隊が隠密裡に敵射程内にある作戦上 重要な島!^等にLAWや垂直離発着機才スプレーなどを使って機動展開し、 敵の海洋アセッ 卜を目標に対艦ミサイルや対空ミサイル等の火力を発揮してSC及びSDの獲得維持に寄与する作戦である。
 そして、当該地での任務の完遂に伴って別の場所への迅速な機動を繰り返し、周辺海域へのアクセスが陸上の敵から拒否されるリスクを相手に課すというコンセプトである。

(3) 米陸軍と海兵隊の任務•役割分担(棲み分け)
 米陸軍と海兵隊は、ともに陸上作戦を遂行する面において、その任務•役割の重複•競合 が懸念されていた。特に、この問題は、米国のINF条約からの離脱と地上発射型ミサイルの配備を巡る陸軍と海兵隊の役割分担(棲み分け)にあった。
 米国は2019年、ロシアがINF条約に違反しているとして同条約から離脱した。それまで、米国は陸上配備のミサイルの射程を499 km (キロ)までに制限されていたが、 同条約か らの離脱に伴って射程制限の適用が解除され、射程500キロ超える中距離の地上発射型弾 道ミサイル及び巡航ミサイルの開発調達が表向き可能となった。
 INF条約に拘束されない中国の中距離弾道ミサイル(MRBM)の優勢の中で、米陸軍及び海兵隊は「米国の軍事抑止力に開いた(MRBMの)大きな穴」を埋めるとともに、「第1列島線に沿った長距離精密打撃ネットワークの構築」のため、 地上発射型ミサイルの配備が 急務となっていたが、双方の重複を避ける役割分担(棲み分け)が課題として指摘されてい たのである。
 それぞれの兵器を見ると、米陸軍MTDFの戦略砲兵(SF)大隊は、射程を650から1000キロ以上に延伸する計画のある精密打撃ミサイル(PrSM)、同1800キロの中距離ミサイル能力(MRC)、そして同2775キロの長距離極超音速兵器(LRHW)を装備する。
 他方、海兵隊は、射程200キロ以上の海洋打撃ミサイル(NSM)、そして同300キロの高機動ロケット砲システム(HIMARS)などを装備する計画である。
 米陸軍は、中距離ミサイルを装備し、主として対地攻撃を、海兵隊は短距離ミサイルを装 備し、主として対艦攻撃を、それぞれ任務役割としていることが明らかであり、 結果的に、 両軍は、統合作戦アクセス構想(JOAC)に沿って明確な棲み分けを行ない、協働して陸上 部隊の使命を果たすこととし、本問題を解決している。

(4) 空軍:迅速機敏な戦力展開(ACE)と広域展開基地システム(DABS)
 空軍は、海軍と協働して「エアシー ・バトル(ASB)」構想の中心的役割を果たし、長距 離精密攻撃によって中国の海•空戦力やC4ISR、継戦基盤などを撃破して統合作戦構想の 目的を達成する。
 その具体的な作戦構想は、「迅速機敏な戦力展開(ACE)Jと、それを成立させるための 「広域展開基地システム(DABS)」である。

ア 迅速機敏な戦力展開(ACE)
 ACEの背景には、中国のA2/AD能力、すなわち弾道ミサイルや巡航ミサイルなどの精密 長距離兵器の飽和攻撃により早期に既存の基地機能の破壊や基地に所在する航空戦力の喪 失の恐れがある、との認識が高まったことがある。
 そのため、絶え間なく変化する厳しい戦闘環境下で遠隔地から戦力を投入する空軍の能力を向上することが不可欠であるとのコンセンサスが、米空軍をはじめとする国防関係者の間で形成された。
 その結果、米空軍は、既存の空軍基地に大規模な航空派遣部隊を前方展開するという概念から、不測の事態や危機に対応するため、既存の基地外の拠点に迅速機敏な戦力展開を行ない柔軟性と抗たん性を向上させ戦闘を継続するという概念への転換を行ったものである。
 これが、ACEと呼ばれるものである。
 ACEの運用に当っては、まず、既存の基地外の拠点に軍事アセットを展開することである。すなわち、既存の基地外に多数の使用可能な飛行場を確保し、 そこに必要な器資材を事 前集積して作戦拠点を準備する。次いで、その拠点に、基地任務の確立と維持に熟練した小 規模な部隊を編成して移動する。移動に際しては、 複数の戦闘機とそれに必要な最低限の整 備資機材および人員を搭載した輸送機をパッケージで運用する。そして、移動した拠点(前 方地域)において基地を開設し再武装と燃料補給、整備を実施する。拠点は、基地としての 通常機能をすべて備えているが、規模ははるかに小さい。その分、迅速機敏な戦力展開が可 能となる。 ACEは、そのような拠点を転々と移動しつつ、戦闘行動の継続を狙いとして実施されるものである。
 それを可能とするのが、次に述べる広域展開基地システム(DABS)と言われるものである。

イ 広域展開基地システム(DABS)
(ア) DABSの概要
 DABSは、シェルターや車両、施設機材、その他を世界中の使用可能な飛行場に事前集積し、空軍が必要な地域で迅速機機敏に航空作戦を立ち上げることを可能とする作戦構想で ある。本構想の最初の適用は、 2018年にポーランドで始められており、空軍の将来作戦に 極めて重要なシステムであると言われている。
 このDABSは、特に中国の脅威に曝されているインド太平洋において、また、ロシアの脅威に直面するNATO •欧州においても、様々な緊急事態に対応できる迅速性と柔軟性を 付与することが可能である。
 そのため、米国は、2021年1月に公表した「米軍の世界的な態勢見直し(GPR)」において、米領グアム、米自治領北マリアナ連邦(グアム島を除くマリアナ諸島:テニアン島、 サイパン島など)での基地機能を強化するとともに、日本、オーストラリア、フィリピン、 南太平洋諸国などで基地の提供やローテーション配備等の拡大に努めている。

(イ) DABSの作戦拠点の拡大
日本
 米国と同盟関係にある日本国内では、米軍の基地の数は極めて限られているため、2015年4月に改訂された「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」の「施設の使用」の項で、 「日本政府は、•••民間の空港及び港湾を含む施設を一時的な使用に供する」「日米両政府は、施設・区域の共同使用における協力を強化する」と約束していた。 しかし、本件に対する国民 の理解が広がらない中、長い間、日本政府としてその具体化が図られて来なかった。
 ようやく 2022年12月に「国家安全保障戦略」などの戦略3文書が策定され、その中で「(民間の)既存の空港•港湾等を運用基盤として使用する」(括弧は筆者)ことが明記され、 ガイドラインの趣旨に沿って、その推進が始まったところである。
 政府が2024年度に優先的に整備する「特定利用空港•港湾」は、下記の空港•港湾計!6 施設であり、緊急時の運用基盤として自衛隊や海上保安庁などの大型の航空機や船舶が利 用できるよう滑走路の延長や岸壁の整備などを行う。
表4-1 特定利用空港•港湾 
空港港湾
福岡県北九州空港北海道室蘭港、釧路港、留萌港、苫小牧港、石狩湾 新港
長崎県長崎空港、福江空港香川県高松港
宮崎県宮崎空港高知県高知港、須崎港、宿毛湾港
沖縄県那覇空港福岡県博多港
沖縄県 石垣港
合計5空港合計11港湾
<出典>読売新聞オンライン「防衛力強化へ16空港•港を整備、滑走路延長や岸壁整備…台湾侵攻リスクで南西地域重点」(2024.03.28 )
オーストラリア
 米国は、ANZUS条約に基づき、オーストラリアと同盟関係にある。また、2021年9月 に米豪英の3か国は、新たな安全保障協力の枠組みとなる「オーカス(AUKUS)」の設立 を発表し、安全保障•防衛協力を強化している。
 それを背景に、米国は、インド太平洋に近いオーストラリア北部において米軍のプレゼンスを強化してきた。  バマ政権期の米国によるリバランス政策の一環として発表された「戦 カ態勢イニシアティブ」のもと、2012年以降、米海兵隊はダーウィンを含むオーストラリ ア北部へのローテーション展開を開始した。
 また、米空軍は、B-52戦略爆撃機やF-22戦闘 機などをオーストラリアへ随時展開し、豪空軍と共同演習・訓練を実施している。将来的に 米陸軍及び海軍もローテーション展開することを予定している。
フィリピン
 米国は、歴史的に関係が深いフィリピンとは、1992年に駐留米軍が撤退した後も、相互 防衛条約及び軍事援助協定のもと、両国の協力関係を継続してきた。
 両国は1998年2月、「訪問米軍地位協定」(VFA)を締結し、2014年4月には、フィリピン軍の能力向上、災害救援などにおける協力強化、米軍のローテーション展開、 米国によるフィリピン国内拠点の整備、装備品•物資などの事前配置を可能とする「防衛協力強化に 関する協定(EDCA)」に署名した。これに基づき、2016年3月、防衛協力を進める拠点として米国が5か所の比軍基地(うち、陸軍駐屯地(飛行場あり)1か所、空軍基地4か所) を使用することについて合意した。
 中国との宥和に傾いたドウテルテ大統領(2016年6月〜22年6月)は、VFAの破棄を 米国に通告するなど、米国との関係を一時悪化させた。
しかし、2022年6月に大統領に就任したマルコス氏は、米国との関係を修復し、2023年2月には、米比国防相が共同で、 EDCAの拠点を新たに4か所(陸軍駐屯地1か所、空軍基地1か所、海軍基地2か所)を指定したことを発表した。
フィリピンに新政権が誕生したことによって、米比両国の安全保 障・防衛協力が再び進展を見せている。
 これで、フィリピンにおいて米軍が使用できる駐屯地・基地は、併せて9か所になった。 ベトナム戦争で米国の最重要の基地として使用されたスービック海軍基地とクラーク空軍基地は駐留米軍基地であった。
EDCAに基づく基地使用は、それとは態様が全く異なるが、 フィリピンのインド太平洋における戦略的価値•重要性を改めて認識させるものとなって いる。
 その位置は、次図の通りである。
図4-8 米比「防衛協力強化協定」( EDCA, 2014年)

 9か所の駐屯地・基地は、北部のルソン島に陸軍駐屯地2か所、海軍基地2か所、空軍基 地1か所、南部のマクタン島とミンダナオ島にそれぞれ空軍基地1か所、南シナ海に面し たパラワン島に空軍基地1か所、バラバク島に海軍基地1か所の配置になっている。
 これらは、明らかに中国軍の行動への対処を考えた措置・対策であり、バシー•ルソン海 峡や南シナ海に向けた作戦拠点となることが容易に覗える。特に、前述した米空軍のDABS の一環として6か所の駐屯地・基地が使用でき点に、特に注目したい。
 なお、オーストラリアも、フィリピンとの間に「協力的防衛活動に関する了解覚書(MOU)J (1995年)、 「豪比相互訪問軍隊地位協定(SOVFA)J(2012年)及び「豪比相互補給支援 協定(MLSA)」(2021年)を締結し、相互防衛協力の関係にある。
 すでに、米豪軍は、 比軍と南シナ海での合同パトロ ールに取り組んでおり、情勢緊迫時に豪軍は、 米国と同じように、比軍の駐屯地・基地を使用した作戦遂行の可能性があり、中国を抑止する要因の一つとしてカウントすることができよう。

南太平洋諸国
 ミクロネシアに属するパラオ、ミクロネシア連邦及びマーシャル諸島は、米国と「自由連合協定(COFA)」を締結し、安全保障•国防の権限と責任を米国に委任している。
 パラオでは、米軍が早期警戒能力を強化するための超水平線(over-the-horizon)レーダー基地を建設中であり、またマーシャル諸島には米国の弾道ミサイル実験と宇宙監視用の 基地が存在することから、 今後、ミクロネシアで米空軍のDABSのための基地使用や基地 建設が進む可能性がある。
 それを裏付けるかのように、2023年5月、米国防長官がさらに南方のパプアニューギ二アを訪問し、防衛協力協定(DCA)に署名して、基地使用に合意した。
 このように、米国は、米領グアム、同自治領のテニアンやサイパンなどの後背地である南太平洋においてもDABSに基づく作戦拠点の拡大を図っている。

3 各軍種の統合とMDOにおける全ドメイン一体化のためのネットワーク化
 中国のA2/ADの脅威下で、米軍が行動の自由を確保するキーワードは、前述の通り、「分散」「機動」「統一」である。
「統一」に関し、全軍種を統合しMDOにおける全ドメインを一体化するためには、そのネットワーク化が避けて通れない重要な課題である。そのツールが、統合全領域指揮統制 (JADC2)といわれるシステムである。
 オースチン米国防長官は2021年5月、JADC2の運用開始を公式に承認し、国防省(DOD) は同年6月にJADC2の運用を開始した、とInside Defense (2021.6.6)が伝えた。また、 インド太平洋軍は2023年5月、全軍が参加してアラスカで行われたNorthern Edge演習 (隔年実施)で初めてJADC2を本格使用したとも報じられている。(Defense News、2023.05.25)
 JADC2は、国防省によって進められている、すべての軍種などのセンサーを単一のネ ットワークに接続する構想である。
 従来、各軍は独自の戦術ネットワークを開発しており、他の軍の戦術ネットワークとは互換性を有しなかった。例えば、陸軍のネットワークは海軍や空軍のネットワークとインターフェースできなかった。
 そのため、国防省は、JADC2により、陸軍、海軍•海兵隊、空軍、宇宙軍など、すべての軍種がもつセンサーを単一ネットワーク化して兵器システムに接続し、 人工知能アルゴリズムを使用して意思決定を改善する「モノのインターネット(internet of things)」ネットワークを構築するものである。 
 その結果、JADC2は、多数のセンサーからデータを収集し、目標を選択するために人工知能による情報アルゴリズムを使用してデータの分析を行い、そして、目標と交戦するため、 動的及び非動的(サイバー兵器や電子兵器)の最適兵器を推奨して、指揮官の決心を助ける機能を果たす。

図4-9 統合全領域指揮統制(JADC2)システム
統合全領域指揮統制(JADC2)システムその1 統合全領域指揮統制(JADC2)システムその2
 このように、JADC2は、統合部隊が情報、警戒監視、偵察などのデータを共有し、多くの通信ネットワークを介して送信し、目標の選択•攻撃のための迅速・正確な意思決定を可能とするクラウドのような環境を提供するものである。
 国防省は、JADC2を同盟国・友好国のシステムとも連接させることを進めており、そのため、名称をCJADC2 (Combined JADC2)に変更した。
 自衛隊は、統合運用の実効性の強化に向けて、平素から有事まであらゆる段階においてシームレスに領域横断作戦(CDO)を実現できる体制を構築するため、2024年度末に常設の 統合司令部を創設する。
 これには、日米共同の抑止力•対処力を高める狙いもある。特に、共同作戦においては、 情報収集、警戒監視、偵察及びターゲティング(ISRT)における相互運用性を向上し、その実効性を確保することが重要である。
 自衛隊は、2023年度から陸海空3自衛隊の運用や作戦情報を一元的に集約する「中央クラウド」の整備を始めており、今後、これと米軍のCJADC2との緊密な連接を積極的に進めて行くことが求められることになる。