無誘導武器の誘導武器化傾向



(藤岡智和 2013.06.25)
(最終更新 2013.07.23)



1 無誘導武器の誘導武器化傾向

 無誘導の爆弾やロケット弾に誘導装置を取り付けて誘導武器化する傾向が、近年急速に進んでいる。 更に GPS 等、衛星測位システムの普及がこの傾向に拍車をかけてい る。

 誘導装置の小型低価格化によるものであるが、精度向上により所要弾数が大幅に削減できれば、射耗弾薬のみならず航空機を始めとする搭載武器が節約でき、更には輸送 や備蓄のコストも低減できることから、誘導武器化によるコスト増を十分に相殺できる。

 無誘導武器の誘導武器化は誘導爆弾として早くから行われてきたが、最近になって70mmロケット弾や MLR の誘導化が急速に行われている。
 誘導化により精度が向上すると弾頭の小型化が可能になり、それに伴い射程も増大する。 射程が150km〜200kmになると、最早 MLR というより立派な SRBM である。

 特に中国が MLR の誘導化に積極的で、NORINCO社や ALIT(ALMITC)社が、各種誘導 MLR を発表している。

 更に、野戦砲弾の信管を経路修正信管に付け替えることで、通常砲弾を誘導砲弾化することも、各国で進められている。


2 通常爆弾の誘導爆弾化

 1960年代に登場しベトナム戦争から使用されている Paveway は、通常爆弾にセミアクティブレーザ (SAL) シーカを取り付けるもので、Paveway U、Enhanced Paveway V、 Paveway W と進化を続けている。

 無誘導武器の誘導武器化傾向が真っ先に現れたのは誘導爆弾で、Mk 82、Mk 83、Mk 84 など無誘導の通常爆弾に誘導措置を取り付けて誘導爆弾にした。

 1970年代に TV 誘導方式の GBU-15/B が出現した。 これは AGM-65 Maveric の TV シーカとデータリンクを Mk 84 又は BLU-109/B 2,000-lb 爆弾に取り付けたものであっ た。

 1990年代に登場した JDAM (Joint Direct Attack Munition:右図) は、シーカを搭載せず GPS だけで誘導するため安価で、目標の座標を入力するだけで使用できるため取 り扱いも容易になり、アフガン戦争以降多用されるようになった。 今日では SAL シーカを併用した Laser JDAM (LJDAM) も登場している。
 一方、SAL 誘導の Paveway も Enhanced Paveway V 以降は GPS 誘導を併用している。


3 空対地ロケット弾の ASM 化

(1) Hydra 70 70mm ロケット弾の ASM 化

APKWS (Advanced Precision Kill Weapon System)

 APKWS は米陸軍が Hydra-70 ロケットに誘導装置を取り付け、ヘリから装甲目標を狙うことを計画して開発を開始した最大射程 6km、CEP 1m 以下、命中確率 87%、 完成弾 としての単価 $10,000 以下を目指すものであった。

 陸軍では途中計画が停滞したが、海兵隊がこれを引き継ぎ、既に装備化してアフガンで使用している。

 

 APKWS は、Hydra 70 70mmロケット弾のロケットモータと弾頭の間に誘導部を取り付けるもので、誘導部には DASALS (Distributed Aperture Semi-Active Laser Seeker) と 呼ばれる独特の方式が採用されている。
 DASALS は従来の SAL 誘導のように先端分シーカを取り付けるのではなく、4枚の誘導翼にそれぞれレーザを受信する眼を取り付け、それぞれの受信強度から目標の方向を 検知して誘導する。

DAGR (Direct Attack Guided Rocket)

 Lockheed Martin社が、Hydra 70 70mmロケット弾と AGM-114 Hellfire の間隙を補完する ASM として、Hydra 70 に JCM と Hellfire の技術を導入した DAGR (Directional Attack Guided Rocket) を自社開発した。

 DAGR は Hellfire U と完全互換で、Lock-on-Before-Launch、Lock-on-After-Launch のいずれも可能なセミアクティブレーザ誘導である。

 射程は、高度20,000ftから発射した場合12kmである。

Talon

 Talon は、Raytheon社と UAE の EAI社が共同で開発している70mmロケット弾に SAL 誘導装置取り付けた誘導ロケット弾で、Yuma 訓練場で行われた3.7kmと5kmの試射で、 1.5uの標的に命中した。

 また2011年には Talon を AH-64D Apache Longbow から発射する試験も完了し、この試験で Talon は1.2km〜6.0kmの標的に対し、ホバリング中及び前進飛行中の Apache から発射された。

 Raytheon社によると、1.2kmは APKWS U では厳しく、6kmも APKWS 以上だという。

GATR (Guided Advanced Tactical Rocket)

 GATR は、イスラエルの Elbit社と米国の ATK社が共同開発に合意した誘導ロケット弾で、現有の70mmロケット弾発射機から発射できる。

 誘導は SAL 方式で、Elbit社が誘導装置、ATK社がロケット及び弾頭の実績を生かす。

LGR 68

 Thales/TDA社が開発している70mm誘導ロケット弾で、フランスの要求による。
 速度は100km/h、射程は4,000mが要求されている。

(2) その他空対地ロケット弾の ASM 化

RPM

 仏 Thales社の子会社である TDA社が、Tiger ヘリから発射するレーザ誘導ロケット弾 RPM を開発している。
 RPM は同社製68mm無誘導ロケット弾のロケットモータ、弾頭の前方に誘導装置を取り付けるもので、発射重量は8.8kg、最大射程は20,000ftで、35km/h以上で走行する 車両も攻撃できる。

Laser Zuni

 MBDA社が米海兵隊向けに、5吋径ロケット弾 Zuni に SAL シーカを取り付けた Laser Zuni を開発している。

 最初の地上発射試験は2009年5月に行われ、2,500ftまで上昇したのち降下間にレーザシーカで30,000ft遠方の標的を捕らえた。 空中発射時の最大射程は15kmである。

 Lase Zuni の重量は63.5kgと Zuni シリーズの中では最も重いが、全長は最長型の長さを超えない。

 対地精密打撃兵器として Laser JDAM しか持たない海兵隊は Laser Zuni 4発を LAU-10 ポッドに装填して戦闘機のパイロンに装備する計画である。

S-24 240mm / S-25 266mmロケット

 ロシア空軍が空中発射の S-24 240mmロケット及び S-25 266mmロケットに取り付ける誘導キットの試験を2013年7月に開始する。 誘導キットは Kh-31AD と同じ GLONASS 誘導装置と操舵翼で構成され、CEP=1mの誘導精度を持つという。


4 多連装ロケット弾の SSM 化

(1) GMLRS (Guided MLRS)

 M30 GMLRS は、M26 MLRS に GPS/INS 誘導装置搭載し、先端に小型のカナード翼を取り付けて精度を高めると共に、最大射程を約70kmまで延伸した。

 湾岸戦争の経験から、MLRS の射程延伸と、子弾の不発弾発生率を低減する必要性を感じた米陸軍は、弾頭部の長さを短くし、その分ロケットモータを長くして射程を45km に延伸した ER-MLRS を開発していたが、射程延伸のため搭載子弾の量は少なくなっていた。

 GMLRS の誘導装置(右図)には、安価で戦闘状況下での使用に適する GPS で補正される IMU (Inertial Measurement Unit) が使用され、機首に取り付けられるカナード翼 は電気機械式のアクチュエータで駆動する。

 2004年4月には陸軍と海兵隊への初号機納入が行われ、陸軍は今後100,000発以上を装備する計画で、HIMARS は両軍合わせて900台以上が装備される。

(2) 中国の NORINCO社誘導 MLR

AR-1/-2/-3 MRL

 AR-1 は300mm弾を8発、AR-2 は300mm弾を12発、AR3 は AR1A や AR2 と同じ8×8車を使用して、300mm弾5発ポッド又は370mm4発ポッドを2個搭載し発射する。

BRE 誘導 MLR弾

 AR-1/-2/-3 が発射する誘導 MLR弾には、以下の二弾種がある。

・BRE3: 300mロケット弾、射程 60〜150km
・BRE6: 370mロケット弾、射程100〜220km

SR-5

 SR-5(右図)は M270 MLRS とよく似た装弾方式のポッド2個を搭載し、それぞれのポッドは220mm弾であれば6発、122mm弾であれば20発を搭載する。

 122mm弾は無誘導で30〜50km、GPS/INS 誘導のCEP=25m弾で40kmの射程を持ち、GPS/INS 誘導の220mm弾は射程70kmでCEP=3mの性能を持つ。

WM-120

 WM-120 は GPS/INS 誘導とみられる射程120km、CEP=50mの誘導273mmロケット弾で、4発入りポッドに収納して搭載する。  発射機は36.5tで、最大速度 は70km/hである。

 発射機は動力式で、方位±20゚、高低20゚〜60゚で発射できる。

(3) 中国 ALIT(ALMITC)社の誘導 MLR

WS-22

 WS-15 の改良型の122mm MRL で弾種が異なる。 新型弾は GPS/INS と42個のスラスタで誘導する。 射程は20〜45km、弾頭重量21kgで、CEP≦100m の性能を持つ。

WS-3

 射程200km、CEP=50mの400mm弾で、発射機に8発搭載する。

WS-32

 300mmの GPS/INS 誘導ロケット弾で射程は60〜150km、CEP≦40mで少なくとも7弾種の弾頭を持つ。

WS-33

 200mmの GPS/INS 誘導ロケット弾で、先端に光学シーカがあり移動目標も攻撃できる。
 弾頭重量は23kgで、射程は10〜70km、CEP≦10mの性能を持つ。

A-200

 A200(右図)は 301mm MLR 弾で、ロケットモータの燃焼後に弾頭が分離し精密誘導される。

 射程は50〜200kmである。

SY-400

 射程200km、CEP=50mの400mm弾で、GPS/INS 誘導。

(4) その他諸国の誘導 MLR

Strike(イスラエル)

 Strike(右図の白色部)は、122mmロケット弾の弾頭とロケットモータの間に装着する GPS/INS 誘導装置で、CEP が10m以内になる。

 ロケットモータの燃焼終了後に manoeuvring section と呼ばれる弾頭部と誘導部が火薬で切り離される。

 スラエルは122mmロケット弾を装備していにいことから、輸出用と見られる。

TCS(Trajectory Correction System、イスラエル)

 イスラエルの IMI社が、MLRS システムに付加し、発射後のミサイルに経路修正指令を送信して命中精度の向上を目指す TCS を開発した。  2003年9月にネゲブ砂漠で行った試験では、CEP≦50mと精度が向上した。

 IMI社によると、米国が NATO と開発中の GMLRS より費用対効果に優れるという。

 TCS は MLRS のほか、ソ連製の BM-21 ロケット、IMI社製の LAR-160, MAR-350 ロケットにも 取り付け可能である。

Smerch/Tornado(ロシア)

 Tornado MRL は2020年までに、現在 露陸軍が600門装備している Grad (122mm)、Uragan (220mm)、Smerch (300mm) と換装される。 在来のロケット弾は Tornado MRL か らも発射できることから引き続き装備される。

 Splav社が、9K58 Smerch MRL から発射する射程120kmの 9M542 300mm経路修正弾を輸出用として開発した。 9M542 は、全長7.6m、発射重量820kg、弾頭重量150kgの 9M55K 経路修正ロケット弾の改良型である。


5 野戦砲弾用経路修正信管

 通常砲弾を誘導砲弾化するため、野戦砲弾の信管を取り替えるだけの経路修正信管が各種発表されている。

 米陸軍は、ATK社が開発した XM1156 PGK の2012年11月に行われた試験結果が良かったことから、2013年中頃に部隊配備を開始する。
 PGK は単価が$13,500で、CEP=50mの性能を持ち、M549A1 及び M795 155mm砲用に開発されたが、 M109A6 Paladin SPH 及び M777A2 牽引155mm砲からも発射できる。

 イスラエルでは IAI社が155mm砲弾用経路修正信管 TopGun を開発した。 TopGun は3kgで、全長140mm、胴径100mmのずんぐりとした外形 をしており、CEP を20m以内にすることができる。
 TopGun は155mm方であれば52口径砲でも39口径砲でも使用できる。

 BAE Systems社と、独伊合弁の Junghans社が、105mm及び155mm砲弾に装着する射距離修正信管 ECF を開発する。 ECF は GPS を利用した 経路修正信管で、射弾散布が最大射距離で300〜400mあったのを40m以下にする。
 ECP の試射は2010年末か2011年初頭に行われ、2012〜2013年に量産が開始される。

 フランスでは Nexter社が仏陸軍用に、Spacido 射距離補正信管を2003年から開発しており、2010年には量産可能な段階にある。
 Sapcido は砲に搭載された初速測定レーダのデータで射距離を補正して射距離射弾散布を少なくするもので、GPS 誘導砲弾が通常弾の4〜5倍の価格であるのに対し3倍程度 で済む。 野戦砲の射弾は方位誤差に比べて距離誤差が大きくなるので、射距離だけの補正で精度を大幅に改善できる。

 Nexter社はこの仏陸軍の要求に合わせて SAL 誘導の MAPCOR 155mm弾(右図)を提案している。 MAPCOR はロシアが開発してフランスが 一部 装備している Krasnopol と異なり、自然な弾道で飛翔する。

 その他にも各国で経路修正信管の開発が進められている。