中 国 の LACM、現状と今後

( 2006.08.08 )





1 中国の LACM の系譜

 中国は当初核搭載巡航ミサイルに関心を持っていた。 X-600(左図)と呼ばれる核搭載巡航ミサイル開発は1977年に開始されたことが 、1995年にロシアの報告文書で明らかにされた。 X-600 は1990年代後半に初飛行している。
 中国はこの時点で既に TERCOM 技術を習得していたと見られている。

 1980年代の中頃には、巡航ミサイル開発のために第8359研究所と、中国巡航ミサイル研究所が設立された。 中国巡航ミサイル研究所 は、かつて Hai Ying-1、Hai Ying-2 (Silkworm) 対艦ミサイルシリーズを開発した Hai Ying 電気機械技術学院が名称変更したものと見 られる。

 通常兵器としての LACM の開発は湾岸戦争を契機に始まった。
 最初に実用化した LACM は、CSS-C-2 Silkworm(右図)の改良型である C-601/YJ-6 を対地攻撃型にした C-603/YJ-63 で、胴径が Silkworm や C-601/YJ-6 と同じ76cmの大型ミサイルである。

 1990年代にはイラク、アフガン、ボスニア及びコソボ等で発射された600発以上のトマホークのうち、少なくとも6発の不発弾が報告確 認されており、これが中国に送られコンピュータ、エンジン、機体及び GPS/INS 等の技術が利用されている公算も否定できない。

 2005年3月には、ウクライナから2001年に18発の Kh-55(右図)がイラン及び中国へ密輸出されていたことが発覚し、そのうち6発が中国 に送られていた。 この結果、中国は Kh-55 の技術を入手したことが明らかになった。

 Kh-55 は最大射程3,000kmの核弾頭 CM であるが、ロシアは Kh-55 を通常弾頭型 Kh-555 に改造すると共に、射程250〜280kmの Kh-65 を開発している。

 更に中国は最近、ロシアから射程300kmの対艦巡航ミサイル 3M-14E1 "Club-S" の LACM 型を購入した模様である。 3M-14E は小型で 、潜水艦の533mm魚雷発射管から発射でき、巡航速度は亜音速モードで Mach 0.6〜0.8、超音速モードで Mach 2.9 である。
 終末誘導はレーダシーカで行い、予めロードされた目標の 3D イメージと参照して誘導される。

 これら海外からの技術を取り入れて開発したと見られるのが一連の HN (Hong Niao: 紅鳥) シリーズ LACM である。

 近年報じられている DH-10 と呼ばれる開発中の LACM は、当初 HN シリーズの最新型と見られて HN-2000 などと呼ばれていたが、最近 では DH-10 (Dong Hai-10:東海-10) と呼ばれ、HN シリーズとは別の系列である模様である。
 中国がウクライナから不法に Kh-55 を輸入したのは DH-10 の開発のため、比較参考のためと推測されている。

 左図は機種不明 CM の開発が進められている光景である。

 中国はイスラエルとの武器技術交流が盛んで、今ではイスラエルがロシアに次ぐ武器供給元になっている。

 イスラエルは1991年に Harpy を中国に輸出した。 Harpy は一見 UAV の様であるが、実際には32kgの弾頭を搭載して500kmを飛行する LACM である。 台湾は、台湾へとどく中国が保有する CM は今のところ Harpy だけで、90基を保有していると見ている。

 2003年に米 DIA が出した LACM の脅威が増大しているとする分析結果の中で、中国は2030年までに数百発の LACM を保有すると見積も っている。


Harpy Lethal UAV Delilah

 2004年6月にはイスラエルが Harpy の補用品を輸出しようとしたが、米国はこの補用品は Harpy の能力向上用改修キットと見て、米国 イスラエル間の摩擦が生起した。
 また1995年に中国は、イスラエルが開発中の Delilah ARM から発展した射程230mileの巡航ミサイル計画に出資している。 このことか ら将来中国が Delilah LACM の導入か、その技術を用いた新型 LACM を開発する可能性がある。

2 各種 LACM

(1) Ying Ji シリーズ

YJ-63

 中国の第一世代 LACM である YJ-63 は、C-601/YJ-6(右下図)の対地攻撃型で TV 誘導方式の低空飛行巡航ミサイルで Tu-16 のコピ ーである H-6 爆撃機から発射する。 TV シーカは、射程15km、発射重量100kgの対艦ミサイル C-701 のものを使用している模様である。

 2000年に、YJ-6 の発射用に改造された30機の H-6 爆撃機のうち25機が、YJ-63 用に改造され、2005年までに200発が YJ-63 に改造さ れると伝えられている。 H-6 爆撃機の1機には翼下の4ヶ所に CM 用のパイロンが取り付けられている。

 終末誘導には何らかの EO が用いられている模様で、CEP は10〜15mになる。 終末誘導が TV 方式であった場合には観目線の通信リン クが必要となるが、中国は2001年にイスラエルから Harpy UAV を導入し現在運用している。

 2004年10月の報によると、中国は既に YJ-63 の配備を開始した模様である。

 YJ-63 の主要諸元は以下の通りである。

全  長: 7.36m ?
胴  径: 76cm ?
翼 端 長: 2.4m ?
発射重量: 2,440kg ?
弾  頭: 500kgHE
最大速度: Mach 0.9 ?
最大射程: 300〜400km
巡航高度: 50〜200m/ m ?
誘導方式: TV
推進装置: 液体ロケット?
YJ-62

 YJ-62 (右図) は射程108nm、全長6〜7mで、慣性誘導とアクティブレーダ誘導を併用する ASCM であるが対地攻撃用もある模様で、対地 上攻撃用には E/Oシーカを採用していると推測される。

 YJ-62 の開発はほぼ終了し、艦船の他 Tu-16 爆撃機からの空中発射及び陸上発射型の開発も行われている。

(2) Hong Niao シリーズ

HN-1

 折り畳み式の直線翼を持ち、慣性誘導と電波高度計による地形追随誘導で飛行し、終末には画像照合誘導を行う。  弾頭としては核の ほか、HE、クラスタ弾がある模様である。 HN-1 には以下の2つの型がある。

  ・HN-1A: 陸上発射型
  ・HN-1B: 空中発射型

 HN-1 の主要諸元は以下の通りである。

全  長: 6.4m
      7.2m (W/booster)
胴  径: 50cm
翼 端 長: 3m
発射重量: 1,200kg
弾  頭: 400kgHE or 90kT核
巡航速度: 亜音速
最大射程: 600km(HN-1A)
      650km(HN-1B)
巡航高度:
誘導方式: INS/GPS + TV
誘導精度: CEP=15〜20m
推進装置: ターボジェット
HN-2

 HN-1 のエンジンを改良し射程を延ばした型で、1996年に装備化している。 2001年6月には艦載型の発射試験が初めて行われ、1000km を飛行している。
 HN-2 も HN-1 と同じく慣性誘導と電波高度計による地形追随誘導で飛行する。 HN-2 には以下の2つの型がある。

  ・HN-2A/-2B: 陸上発射型
  ・HN-2C:  潜水艦発射型

 香港の「明報」紙によると、HN-2 と思われる射程1,500kmの紅鳥は、1996年に配備されている。

 HN-2 の主要諸元は以下の通りである。

全  長: 6.4m
      7.2m (W/booster)
胴  径: 70cm
翼 端 長:
発射重量: 1,400kg
弾  頭: 単弾頭
巡航速度: 亜音速
最大射程: 1,800km (-2A,-2B)
      1,400km (-2C)
巡航高度:
誘導方式: INS/GPS + TV
誘導精度: CEP=5m
推進装置: ターボファン
HN-3

 現在開発中の Tomahawk に似た巡航ミサイルで、2005年頃実用化すると見られている。 一説では3,000kmの射程があるとも言われてい る。 HN-3 は以下のほか、H-6 爆撃機や HJ-7/FBC-1 爆撃機からも発射できる。

  ・HN-3A: 陸上発射型
  ・HN-3B: 水上・潜水艦発射

 2004年8月に中国の航空宇宙開発の関係者が、新型ミサイルの飛行実験に成功したことを明らかにした。 ミサイルは極めて高い精度で 目標に命中し、実験には曹剛川国防相が立ち会ったという。
 ミサイルの名称や射程など具体的な情報は一切明らかにしていないが、外交筋は巡航ミサイル紅鳥の新型との見方を強めている。 香 港紙「明報」は、新型巡航ミサイルの射程は3,000kmで、命中精度は 5mの範囲としている。

 HN-3 の主要諸元は以下の通りである。

全  長: 6.4m
      7.2m (W/booster)
胴  径: 75cm
翼 端 長:
発射重量: 1,800kg
弾  頭: 単弾頭
巡航速度: Mach 0.9
最大射程: 3,000km
巡航高度: 10〜20m/  m
誘導方式: INS/GPS + TV
誘導精度: CEP=5m
推進装置: ターボファン
(3) Dong Hai シリーズ

DH-10

 開発の最終段階に入った LACM で、射程は1,500km以上、慣性誘導を行い、中期に飛行修正を実施、終末誘導に終末誘導にディジタル sxene-matching 誘導を取り入れており、 CEP は10mと見られている。
 2004年10月の報道によると中国が DH-10 の発射試験を行った。

 2004年9月に中国が長距離戦略巡航ミサイルの試験に成功した模様である。 香港筋によると、実験には党軍事委員会の副主席が立ち会 った。
 このミサイルは DH-10 で、終末誘導は YJ-83 対艦ミサイルと類似のシーカを使用したアクティブレーダホーミングで、機体にはある 程度のステルス性があり、HN-3 同様に高度10mを巡航できる。

 DH-10 は、かつて HN-2000 と呼ばれており、その射程は4,000kmと言われていたこともあった。

(4) その他の LACM

YJ-22

 Ying Ji 12 (Eagle Strike: 右図) はインテグラルラムロケットのミサイルと見られ、全長は概ね5m、巡航速度は Mach 2.0〜2.5 程度 、 最大射程は100〜120kmと見積もられる。

 主たる用途は対艦ミサイルのようであるが、ARM や対地攻撃型の開発も可能と思われる。

 事実 対地攻撃用の YJ-22 の名前も伝えられている。

C-802/YJ-2

 中国が2001年5月に、C-802/YJ-2 対艦 ASM (右図) を改良した LACM (Land Attack Cruise Missile) の初の発射試験を実施した。

 このミサイルは、弾頭重量 500kg、射程 200km といわれ、その誘導技術には鹵獲された Tomahawk のほか Kh-55S 及びイスラエルから の技術が使われている模様である。

その他の情報

 2004年8月の報道によると、中国は1999年に Kh-15 (AS-16) と良く似た LACM の模型を公表しており、また別に全長6m、胴径52cm、発 射重量1,600〜2,000kgで、150〜410kgの弾頭を搭載して400km飛行する、超高速巡航ミサイルを開発中とも伝えられている。


3 LACM 関連技術

(1) シーカ

 2004年6月に YJ-63 に搭載する KD-63 (右図) 及び KDD-88 シーカをエアショーに展示した。 KDD-88 の搭載機種は明らかにされてい ない。
(2) エンジン

 中国の CAIC社傘下の GTE (Gas Turbine Establishment) が、WS500 ターボファンエンジンシリーズを開発し、中国航空ショー2004に 展示した。
 WS500 は500daN (1daN≒1kg) の推力を持ち、UAV のエンジンに適しているが、ビジネスジェット機にも使える更に高推力型も開発して おり、シリーズとして180daN〜800daNが開発されている。
 GTE は推力が10,000kg以下の軽ガスタービンエンジンの開発を焦点としている。

 米国の Tomahawk のエンジン推力が600-lbであることから、中国には GTE社の様な LACM 用のターボファンエンジンを開発製造する能 力を有する企業が存在すると見ることができる。


4 中国の LACM の今後

(1) 全般傾向

 台湾に届くミサイルは現在 BM が約700発であるのに対して CM は Harpy を中心に僅かに100発と、BM が主である。

 台湾の報道によると、中国は2005年末から LACM の配備を開始し、2006年末までに200発を配備する。 その後年産200発のペースで配 備を続けるという。 ただし米国は、2030年までに中国が保有する LACM を数百発と見積もっいて、両者の見方に大きな差がある。

 台湾に向け現在配備されている BM は射程600kmの M-9 と射程300kmの M-11、合わせて約700発である。 しかしながら現在、射程が 360km(一説には200km)の WS-2 MLRS に中国製 GPS と終末誘導装置を取り付け、精度の向上を図る計画や、最大射程120kmの B611 TBM の射程を250kmまで延ばす計画などが伝えられ、台湾に届く弾道弾の数が今後飛躍的に増加することが見込まれる。 以上から中国の台湾 に向けた火力の中心は引き続き弾道弾で、CM はその補足に使われる可能性が大きい。

 これに対してグァムなどの長距離目標攻撃には、射程3,000kmの BM より射程3,000kmの CM の方が取り扱い容易であり、CM の方が飛行 経路上での発見困難であることから、 LACM が適していると考えられる。

 機能性能別に見たこれからの中国の LACM の趨勢は、以下のように考えられる。

長射程化

 中国の LACM は YJ-63 以降、逐次長射程化されている。 しかしながら無目的な長射程化はあり得なく、台湾が攻撃目標であれば300 〜500kmで十分であり、沖縄や佐世保を目標にしても800〜1,000kmで可能である。
 中国の通常弾頭型 LACM の長射程化は、グァム等まで到達できる3,000kmが目処で、3,000kmあればインド全域を射程内におさめること もできる。 3,000kmの射程があればこれを SLCM 化することにより、将来例えば米本土攻撃の様な新たなニーズが発生しても、一応対応 できる。

 中国は CM 開発の重点を BM では対処し辛い艦船への攻撃を行う比較的射程の短い(数百`)ASCM に置くと見られるが、ASCM にも限 定的な対地攻撃能力があり、また ASCM の LACM 型出現も予想される。

 以上より今後10〜20年以内における中国の通常弾頭型 LACM は、

射程3,000〜4,000kmの LACM

射程1,000〜1,500kmの LACM

射程数百`の空中発射超音速 ASCM (限定的な対地攻撃能力を持つ)

と、大きく三系列に集約されると見られる。

高速、高運動化

 Scramjet 推進により Mach 7〜10 で飛行する超高速 CM は、当該時点には米国でも武器としての開発段階にはなく、タービンエンジン で Mach 4+ を目指す RATTLRS ですら、開発に移行できたとしても開発初期の段階にある。

 一方のロシアでは唯一の液体ラムジェットエンジン開発会社が解散したためこの種エンジンの新型開発は停滞した状態にあり、Kh-31, Kh-41 以上の高速、高運動性能 CM が出現する可能性は低い。

 中国は既に Kh-31(右図)を Su-30MK2 搭載用に装備しており、その技術は早晩吸収できると見られることから、固体燃料インテグラ ムラムジェットエンジン搭載で Kh-31 級の高速、高運動性能を持つ CM が出現する可能性は高い。
 また、高々度からハイダイブで突入する場合には、亜音速ミサイルでも超音速になることが考えられる。

 しかしながら超音速 CM では EO/IIR シーカが使用できないため、誘導方式は GPS/INS のみか、アクティブレーダホーミングとの組み 合わせに限定される。 GPS/INS のみの場合にはピンポイント攻撃を可能にする精度は得にくく、攻撃目標は広域目標に限られてくる。
 このため超音速 CM が LACM として使用可能な精度を得られるか否かは、アクティブレーダシーカの性能にかかってくる。

スマート化

 中国は既に EO/IIR 方式の CM 用シーカを開発しており、ロシアからも各種 LACM 用シーカの技術を導入している模様である。 この 結果、マルチモードシーカ、自動捕捉アルゴリズム、物体の 3D イメージ化による目標判別など、精密誘導自律型ミサイルに不可欠な技 術は既に取得したか、近々取得する可能性が高い。

 特にロシアから導入した 3M-14E (Club-S) が使用していると言われる、レーダが取得した 3D 画像データを、プリセットされたイメー ジデータと照合し目標の自動判別、照準に使用する技術を取得すれば、EO/IIR シーカで使えない超音速 CM で対地精密打撃を実現できる 可能性が出てくる。

ECM の併用

 最近は LACM や ASCM が ECM 装置を搭載すると見るのが一般的であるが、CM の搭載弾頭として EMP 弾頭も話題にあがっている。  EMP 弾頭を搭載した CM が攻撃を行う CM に随伴すると、地上防空網に対して丁度有人機における SOJ/EJ と同じ効果があるため、使用 される可能性は否定できない。

ステルス化

 今後10〜20年以内に中国が LACM に実現できるステルス性能は、ロシアが Kh-101 で目指している RCS=0.01u は無理であろう。 ロ シアのステルス技術はプラズマの利用など高度なものであり、この技術をこの先10〜20年で中国が習得するとは思えない。

 ステルスは一般に、

・機体形状の工夫でバックスキャタを低減
・複合材やセラミック等の採用による電波の透過
・電波吸収材の塗布等による吸収
で実現するが、材料等基礎技術の蓄積を要する透過性材料や吸収剤の開発は中国には限界がある。 機体形状の工夫は、正面からではなく 側方から発見される場合多い LACM にどの程度有効であるか疑問である。

 以上から今後10〜20年以内に中国が LACM に実現できるステルス性は「ある程度」(-10dB 程度?)に留まると思われる。

(2) 射程3,000〜4,000kmの LACM

 グァム、佐世保を射程圏におさめ、航空基地及び軍港に対して、相手が JLENS/SLAMRAAM の様な CMD を装備していることを念頭に入れ た攻撃を行う。

 このため発射後は洋上を、エンジン効率の良い長距離飛行に適する中高度を亜音速で飛行する。 SLAMRAAM の射程圏に近づくと SLAMRAAM の届かない高々度に上昇し、MPQ-64 の死角 (55゚) となる天頂から、加速ジンキングしながらトップアタックで突入する。  突入速度は超音速になることも考えられる。

 超音速突入の場合シーカには DBS などの高分解能レーダが考えられ、3M-14E (Club-S: 右図) の様にレーダ画像と 3D イメージデータ との照合を行うことも可能である。 中国は戦闘機に搭載する FCS レーダの開発を進めており、高分解能レーダシーカ開発の技術も有す ると見なせる。

 弾頭には侵撤単弾頭、侵撤子弾頭数発、誘導子弾数発の搭載が可能である。 ある程度のステルス性は求められたとしても、飛行経路の 大半が捕捉されにくい洋上となる運用形態から、強く要求はされないものと見られる。

(3) 射程1,000〜1,500kmの LACM

 台湾を防空組織の手薄な東岸から攻撃することが可能で、また沖縄、佐世保を射程圏におさめることができる。 攻撃目標となるのは 各種軍事目標のほか、行政施設、通信情報中枢、発電所などや、工場などの産業関連施設、その他民生施設も考えられる。

 ミサイルは洋上の中/低空を亜音速で長距離飛行したのち、陸上の低空或いは超低空を防空網を回避しながら進入する。 このためス テルス性が求められると思われる。

 目標の攻撃要領は水平飛行をしながらのエアロゾル、サーモバリック、破片榴弾、生物化学兵器による地域制圧、子弾を散布しながらの 通過攻撃、ポップアップしてからのハイダイブによる侵撤弾/侵撤子弾の攻撃、誘導子弾をトス放出する攻撃などが考えられる。

 シーカは EO/IIR になるであろう。

(4) 射程数百`の空中発射超音速 ASCM (限定的な対地攻撃能力を持つ)

 中国が Passive/Active Radar Homing で Kh-31 級の運動性能を持つ ASCM を開発する可能性は十分にある。 この際、インドがロシア と共同開発した PJ-10 BrahMos の技術が導入される可能性も否定できない。

 インドは長く中国と軍事的対立関係にあったが、最近両国間には融和の兆しが見えている。 その上インドは BrahMos を輸出を前提に 開発しており、中国が希望すれば輸出もあり得る。

 ただ最近印露が、武器技術移転に伴う取り決めを行っており、ロシア製の液体燃料ラムジェットを採用している BrahMos の対中輸出に はロシアからの承認取得とロイヤリティの支払いが前提になる。 そうなると中国は直接ロシアから BrahMos の原型になった P-800 (SS-N-26) Yakhont(右図)を導入することも考えられる。

 超音速 ASCM は Passive/Active Radar Homing 誘導を行うが、いずれも対地攻撃用としても使用可能である。 古い世代の Active Radar Homing では地上目標の判別、自動捕捉は極めて困難であったが、GPS/INS との組み合わせでホーミングは終末段階のみで良くな り、レーダの精度向上も期待できる様になったため、固定目標であれば十分に使用できるようになる。
 特に艦船の CIWS 等を回避するための高速ジンキング飛行は、堅固な防空網に守られた目標や防空網そのものに対する攻撃に効果を発揮 できる。