2008年のイスラエル USRMD に関する報道

年 月 日
出   典
標     題
要         旨
2008.10 Jane's Missiles & Rockets US commits increased aid for Israeli missile defence <0811-100011>
 米国とイスラエルから正式の発表がないが、イスラエルの報道によると米国が Arrow 3 の開発に$750Mを支出するなどの支 援を行う模様である。 Arrow 3 はイランからの Shahab を Arrow 2 の二倍になる500km遠方で撃墜できる。 Arrow 3 では新型の Black Pine レーダと新型弾を開発するため、計画総額は$1.5Bにのぼる。
 米国は FBX-T レーダをネゲブ砂漠南部に展開すると共に、DSP 早期警戒衛星の地上受信装置である JTAGSイスラエルに提供する。
 一方 Iron Dome の二回目の発射試験が7月に行われたが、配備時期は当初計画の2010年から遅れて2011〜2012年以降 になりそうである。 Iron Dome の開発遅れにもかかわらず軍は Phalanx 導入に消極的である。 米国はイラクに12基の Phalanx を配備して いるが、可動なのは3基だけという。 更にイスラエルが Sederot 市を護るだけでも12基必要で、Ashqelon の発電所を護ろうとすると更に4〜5 基が必要になると見られている。
 Rafael社は Iron Dome の開発と平行してソリッドステートレーザの開発も進めている。
2008.08 Jane's Missiles & Rockets Rafael shows Iron Dome and Stunner missiles <0809-080018>
 6月にパリで開かれた Eurosatory 防衛展で Rafael社が Iron Dome 及び Stunner の実大模型を公開した。
Iron Dome(右図上)
 同社製 Derby AAM とよく似た形状で、Derby 同様に4枚の操舵カナード翼の直後に、Derby ではロール安定用に使用されているの同じ一対 の小型翼を持っている。
 Iron Dome はレーダシーカを搭載し、有効射程は4〜17kmで、2010年1/四半期に配備が 開始される。 Iron Dome の発射機は20発を搭載し、1基で1都市の防護が可能である。 Iron Dome 中隊は1基の BMC と1ないし複数の発射機を装備する。
Stunner(右図下)
 David's Sling BMD システムに使用する Stunner は2モードシーカと多パルスロケットモータを搭載して高運動性能を実現すると共に、 発射後の目標変換を可能にしている。 最大射程は180kmである。 中隊は1基の BMC と4個の FU で構成されるが、FU を6個にまで増やすことができる。 Rafel社は、米陸軍がレーダを換えた David's Sling を採用する見込みと考えている。
Spyder-EX
 Python 5 AAM と Derby AAM を地上発射にした最大射程15kmの Spyder-SR は2ヶ国で採用され、そのうちの1ヶ国には既 に配備されているが、ミサイルにブースタを取り付けて射程を50kmにまで延伸する Spyder-MR の開発も行 われている。 Rafael社は将来、ブースタをはずした Stunner を搭載した Spyder-MR を上回る性能の Spyder-EX を考えている。
2008.07 International Defence Review Volatility in the Middle East drives Israeli defence industry innovation <0808-070014>
= イスラエルの軍事産業に関する9頁にわたる特集記事 =
 イスラエル最大の軍事産業である IAI社は15,500名の従業員を擁し、2006年に$2.7B、2007年に$3.3Bを売り上げ、その80%を輸出している。 IAI社の5つの事業部のうち レーダや電子装置を扱っているのが IAI Elta Systems社で、次のような新製品を開発している。
EL/M-2080S Super Green Pine:(右図上)
 Arrow システムの EL/M-2080 Green Pine L-band レーダを改良した Arrow 3 用のレーダで、アクティブモジュールが高出力化されている。
EL/2080 AAR:(右図下)
 100kmの捕捉距離を持ち、50km遠方で CEP=150mの精度で発射位置を標定できる EL/2080 S-band AAR開発の最終段階 にある。
その他各種
【註:】
 Elta EL/M-2084 AAR は、イスラエルの USRMD である Iron Dome のセンサとしても使われている。
【関連記事:0805-032601 (JDW 2008.03.26)】
2008.06.23 Aviation Week & ST Dual-defene <0808-062309>
 イスラエルで、対ロケット弾システムである長距離用の David's Sling と短距離用の Iron Dome の開発が進められている。
David's Sling
 David's Sling の迎撃弾である Stunner は固体燃料ロケットと3パルスモータの本体の二段推進で、イルカ型弾首には IR シーカとその後方にレーダシーカが取り付けられており、IR シーカは終末誘導に使用される。  SLAMRAAM の補完用として米陸軍への導入の可能性もあり、そのほかに20ヶ国程度が 導入の可能性のある国と考えられている。
 David's Sling の標準編成は、レーダ、指揮装置、及び16発搭載発射機4両であるが、Stunner のブースタをはずして SPYDER-LR に搭載することも考えられており、その場合でも最大射程は180kmになる。 ブースタ付きでは300kmである。
Iron Dome
 レーダシーカを装備し最大射程が70kmである Iron Dome は、David's Sling に先立つ2011〜2012年に装備化される。
2008.05 Jane's Missiles & Rockets Iron Dome advances to meet Quassm threat <0806-050007>
(半分は JDW 2008.03.26 と同文の記事)
 今回の試験は 'flight out test' と呼ばれる発射機からミサイルを射出する試験で、オートパイロットや誘導装置は使用していない模様である。
(既報に加えて Sky Guard THEL が不採用になった理由について既述)
 THEL は最適な気象条件で35%の撃墜確率であった。 しかも THEL が使える気象条件は70%でしかなかった。 ガザの気象を考えれば、一年の 35%でだけ使用でき、しかも撃墜確率は35%でしかない。
2008.04.02 Jane's Defence Weekly Israel reaffirms decision to reject THEL system <0806-040205>
 イスラエル国防省は、ガザ地区から発射されるロケット弾攻撃に対して THEL は有効ではないとする先の決定 を再確認した。 3月21日にイスラエルは THEL が展開している WSMR に調査団を送ったが、この結論に達した。
 THEL は Nautilus 計画を引き継いで、現在 Northrop Grumman社の一部になっている TRW社が開発を行い、1996年には初めての試験が行われた が、18tの大きさから機動可能な MTHEL の開発を開始したものの2005年に計画が中止になった。
 その後 Northrop Grumman社は、移動型の SkyGuard をイスラエルに提案し、それまでのつなぎとして試作 THEL を使用することを提案したが、 移送に18ヶ月と$180Mを要することからイスラエルは提案を受け入れなかった。
2008.03.26 Jane's Defence Weekly Israel completes first launch of Iron Dome interceptor <0805-032601>
 イスラエルが3月9日に Iron Dome 対ロケットシステムの発射試験に成功した。 Iron Dome は、射程が4〜70kmのロケ ット弾に対抗するシステムで、迎撃弾である Tamir胴経160mm全長3m 重量90kgのミサイルで、極めて高度な近接信管と弾頭を搭載する。 開発の重点はコスト低減で、現在の単価は$45,000 である。
 Iron Dome の中隊は EL/M-2084 MMR (Multi-Mission Radar) と指揮装置及び、20発搭載発射機3基で構成される。 発射機はゴミ運搬トラック で運搬できる。 過去の経験から、発射されたロケット弾の75%が目標からはずれていることが分かっているため、EL-M-2084 レーダは援護対象に着弾し そうなものを選別して迎撃する。 中隊の援護域は射程15kmのロケット弾に対して150kuで、援護確率は90%であ る。
 Iron Dome は2009年初期の IOC が見込まれている。
2008.03 Jane's Missiles & Rockets Israel releases more details on anti-rocket programmes <0804-030002>
 1月22日にイスラエル首相が Rafael社を視察した際、Stunner の実大模型が展示された。 外観では2007年 10月の AUSA で展示された模型に比べブースタの径が細くなっている。 AUSA で展示された際のブースタは本体の二倍の径であったが、 今回は30%太いだけであった。
 本体は2パルスロケットを使用し、弾首の形状から最先端にセミアクティブレーダシーカ 、その後方に IR シーカが取り付けられている模様である。 弾尾には二列近接して十字翼が取り付け られており、ケーブルダクトがそこまで伸びている。 
 イラン製 Fajr や Zelzal など、射程が40〜250kmのロケット弾に対抗する Magic Wand システムが使用する 迎撃弾の名称は、当初米国名が Stunner でイスラエル名が David's Sling であったが、今ではイスラエル国防省も Stunner と呼んでいる。
 一方 Qassam、Grad、Katyusha など、射程4〜70kmのロケット弾に対抗する Iron Dome はレーザ誘導方式で 90kgの迎撃弾を使用し、車載発射機に20発を搭載する。 運用開始は2010年初期とさ れているが、国防省はできるだけ早く、少しでも多くを装備したい考えである。
2008.01.02 Jane's Defence Weekly Barak seeks to revisit Skyguard, Steel Curtain <0802-010207>
 イスラエルは2007年2月に、射程4km〜40kmのロケット弾に対抗する USRBMD として Rafael社の Iron Dome を選定したが、Barak 国防相が選定に漏れた以下のシステムの再検討を要求した。
【 Iron Dome 選定関連記事:0705-020704 (JDW 2007.02.07)】
Skyguard HEL
 Iron Dome の単価が$35,000であるのに対し Quassam は$200と経済的に合わない。 これに対して Skyguard の 一照射は$2,000という。 開発費も Iron Dome の$214Mに対し THEL の無毒な移動型を開発しても$180Mで済む。 更に IOC も Iron Dome の2010年に対し、18ヶ月で開発できるという。
Steel Curtain
 イスラエルが、4〜40kmのロケット弾に対し$300,000の Stunner ミサイルを使用する David's Sling システム、射 程4km〜40kmに対しては Iron Dome の二系列で臨もうとしているのに対し、IAI社は Arrow の技術を転用した5〜250km対処の Steel Curtain を提案している。 単価は$100,000という。
2008.01 International Defnce Review Israel develops comprehensive defences against varied missile, rocket threats <0803-010014>
= イスラエルのミサイル防衛に関する5頁にわたる特集記事 =
 イスラエルは弾道弾脅威を以下の四種類に分類している。
 ・第一種:射程20km以下、107mm Katyusha 及び Quassam
 ・第二種:射程40km程度、122mm Grad
 ・第三種:射程50〜250km、Fajr-3/-5、Raad、Khaibar 1、Zelzal 2、
              Fateh-110、SS-21
 ・第四種:Scud B/C/D、Shahab-3
 イスラエルは現有の Arrow 2 及び PAC-2 に Arrow 3、David's Sling(右図 Stunner 迎撃弾)、Iron Cap を加えた5層防護を整備しようとし ている。 Arrow 3 用に Green Pine を改良した Great Pine レーダは既に完成している。
 Iron Cap の中隊は、レーダ1基、指揮装置1基、20発搭載発射機6基を持ち、人口密集地一ヶ所 をロケット弾の斉射から防護できる。