1 時期・場所
2023年7月12日~13日
台湾国防部最高軍事法院講堂及びサンワンレジデンシズ台北会議室
2 活動内容
セミナー開催
項目 | 発表者 |
日本の安全保障政策 | SSRI理事長 井晉 |
日本の国民保護法と台湾の全民国防の紹介 | SSRI研究員 岩本由起子 |
交流討論 | 司会 最高軍事法院長の金少将 |
3 成果概要
(1)全般
日本安全保障戦略研究所(SSRI)は、設立以来今日まで台湾の軍人や研究者と研究交流を続けてきたが、この間、台湾の軍人だけでなく研究者も自衛隊は軍隊であると思い込んでいることに気が付いた。
そのような場合は、その場で説明してきたが、短時間の説明なので、相手は一応納得するものの本当に理解したのか気になっていた。
ロシア・ウクライナ戦争の教訓から、中国による台湾への軍事侵攻の可能性、そして存立危機事態、武力攻撃事態になったとき、台湾軍と共闘する可能性を考えると、台湾側の誤解を早く取り除いておく必要性を感じたのであった。
(2)安全保障啓蒙活動
安全保障啓蒙活動は、日本の安全保障政策や自衛隊に関する誤解がある問題について、正しく理解してもらうため、基礎的な情報を提供することを目的にしている。
すなわち日台間の研究交流は、相互に研究成果を披瀝し議論することが目的であるが、安全保障啓蒙活動は、講演あるいは講義の形で、日本の安全保障政策に対する理解を深めることを目的とする。
また、台湾に居住する邦人に対しても安全保障に関する正しい情報を提供することは重要である。
第1回安全保障啓蒙活動は、「日本の安全保障政策の基本」と題し、台湾国防部最高軍事法院講堂で行った。
会場には、最高軍事法院および国防大学の法律専門家、国防部憲兵、有力なシンクタンクの研究者など、法律専門家が参加した。講演に続いて、最高軍事法院長の金少将の司会で質疑応答が行われた。因みに、最高軍事法院は、軍隊における軍事法廷(軍法会議)に相当する。
また、台湾邦人に対して「日本の国民保護法と台湾の全民国防」と題し、日本の国民保護法における避難計画や緊急事態への対応及び事前準備等について具体例を挙げて説明を行った。
(3)日本の防衛法制と自衛隊の行動
日本は、憲法第9条で陸海空軍などの戦力を保持せず、交戦権を放棄している。
この憲法第9条は、外国人にとって理解し難い規定であろう。
自国の安全保障に不可欠な軍隊をもたない先進国は、世界でも稀有なのである。
講演では、先ずロシア・ウクライナ戦争が、日本の安全保障政策に対し重大なインパクトを与えたことを説明し、続いて、日本の憲法がこのような規定を置いたのは、第2次世界大戦の降伏文書のポツダム宣言にあったことを説明した。
第2次世界大戦の連合国の占領政策の置き土産とも言える憲法第9条は、日本が主権を回復した後も、現在に至るまで改正できていない。
自衛隊は、憲法第9条で戦力を放棄しているので、通常の意味では軍隊ではない。自衛隊は、国内法で行政機関の一部(警察)なので、日本には軍刑法や軍刑法違反を審理する軍法会議は存在していない。
言い換えると、日本の防衛法制は警察法的な法体系であり、いわゆる「ポジリスト」方式で、「できること」だけが規定されている。
したがって、自衛隊の行動はすべて法律の根拠が必要で、自衛隊は法律で定められていない活動はできない。
(4)日本の安全保障政策の方向性
日本政府は、憲法上の制約の下で、安全保障政策を国際情勢に即して、国内法を制定してきた。
*「武力攻撃事態等法」(2005年)で、存立危機事態や武力攻撃事態における日本の対応を明らかにし、
*「平和安全法制」(2015年)で、自衛隊に長年の懸案だった集団的自衛権の行使を可能にした。
*2013年12月に閣議決定(その後2022年12月に改定)した国家安全保障戦略では、国際秩序の破壊や力による一方的な現状変更を脅威の対象とした。
日本は、米国を始め同志国との連携強化により、これに対処することを明確にした。
憲法第9条の改正問題は残るものの、日本は、ここに至ってようやく現実的な安全保障政策を決断したと言えよう。
(5)台湾邦人に対する啓蒙活動
日本の国民保護法と台湾の全民国防について比較検討し、日本の国民保護法における避難計画や緊急事態への対応について認識の共有を図った。
また、台湾の全民国防制度や緊急事態時の国民の協力体制、さらに台湾に住む邦人の事前準備などについても具体的な例を挙げて説明することにより、台湾邦人の安全保障意識向上に寄与することができた。
特に、日本と台湾の国防における共通点と相違点について理解を深めるとともに、「台湾の全民国防ハンドブック」を和訳した資料については非常に有益なものであると好評であった。
(6)その他参考
動画
第1回安全保障啓蒙活動セミナー