日本領土に慰安婦像が設置される日

日本安全保障戦略研究所上席研究員 高井晉
(プロフィール)

1 はじめに


 米カリフォルニア州サンフランシスコ市議会は2017年11月20日に11月22日を「慰安婦の日」と決議し、 同市の中華街にあるセント・メリーズ公園の展示スペースで慰安婦像の除幕式が22日に行われた。
 新聞報道によると、慰安婦像は、中国系米国人らにより結成された「慰安婦正義連合」(CWJC)が主導し、 韓国系団体なども協力する形で設置された。除幕式には駐サンフランシスコ中国総領事や韓国から訪米した元慰安婦、 米連邦下院で慰安婦問題での日本非難決議を主導したマイク・ホンダ前議員らが参加したという。
 大阪市は、姉妹都市のサンフランシスコ市 の行為を非友好的であるとして、12月中にも市の幹部会議で姉妹都市提携の解消を正式決定する方針であるという。

 また12月8日には、日本軍占領下の慰安婦を象徴するフィリピン人女性の像が、首都マニラ市のマニラ湾に面したロハス通り沿いの ベイウォークと呼ばれる遊歩道上に設置されたという。
 ベイウォークは、周辺にフィリピン政府庁舎や日本を含めた各国大使館があり、夕日を眺める観光名所となっている。 同慰安婦像は、政府機関の「フィリピン国家歴史委員会」が、現地の民間団体などの支援を得て設置したが、報道によると、 12月8日は1941年の日本軍のフィリピン侵攻開始日で、式典ではエストラーダ市長の代理人が、「私たちは慰安婦の苦境を忘れない」 との声明を読んだという。

 朝日新聞の虚報に端を発した慰安婦問題は、中国や韓国の反日団体が世界で日本を貶める宣伝活動の根拠となっており、 両国との友好関係を増進させる行動をしてきた多くの日本人の心を傷つけている。

 日本人の心を踏みにじる慰安婦像の設置が日本の国土に及ぶ可能性は、これを否定できないのである。  

2 外国人による日本領土の購入


 主として中国人や韓国人などの外国人による日本領土の購入が安全保障上の重大問題であるとする警鐘が乱打されて久しい。
 これら外国人は、長く続いた不景気の下で、地方の過疎化、山林と木材の価格暴落等を好機と捉え、豊かな自然が維持され治安が 安定している日本の領土を投機対象としてきた。外国人による日本領土の蚕食は、単なる経済行為の場合は別として、その外国人の本国の長期的戦略を背景としたものであれば、国土安全保障上、看過できない問題といえよう。

 外国人による日本領土の蚕食は、今から30年ほど前から始まったといわれ、対馬などの過疎地、富士山周辺の別荘用リゾート地、 ゴルフ場、森林などの価格が底値となった時期と重なっている。
 とりわけ木材の異常な低価格と山林経営者の高齢化は森林経営を圧迫し、これが外国人の山林購入に拍車をかけた。 これら外国人による森林購入は、ほとんどが日本人名義で行なわれており、その実態が明らかにされることは少ない。
 この事実は、景観を維持し水資源を涵養してきた公共財ともいえる森林の健全な維持管理について、漠とした懸念を生じさせている。
 また、土地購入の目的が単なる経済活動のためのみならず、明確な政治的目的を伴った活動のためである場合、これを阻止できる法制度が十分に 整備されていないことが指摘されている。

 国土利用計画法(2005年最終改正)に従うと、市街化区域と都市計画区域以外の1万u以上の土地の取引の場合、都道府県への届出が義務 (第23条)となっているが、購入者の個別情報については公表されないのが一般的である。
 北海道議会で珍しく公表された森林売買の調査結果によると、2009年には7件約350haの外国人による森林購入があったという。 既に北海道の約4万haの山林を約2200の外国人が所有しているといわれるが、このうち購入者が明らかにされた事例はその半数にも満たない。

 過疎地となった対馬は、今日、韓国人観光客を抜きにしては島の経済が成り立たない。対馬への観光客は、韓国人の増加に半比例して日本人が 減少し、海上自衛隊対馬防備隊本部に隣接する浅茅湾沿岸には韓国人専用のロッジが並ぶほどである。対馬の竹敷地区や厳原・美津島市街地等 の土地売買のうち、約90%が島民や帰化日本人名義で韓国人が購入しているといわれる。
 港湾周辺の土地約3000坪が売買され、同防備隊本部の 隣接地に韓国資本100%のリゾートホテルが建設されたことから、この事実が安全保障上の問題として物議を醸した。
 このほか富士山麓周辺等の風光明媚なリゾート地、北海道の牧場やスキー場、全国各地のゴルフ場などが外国人により購入されている。

  これら外国人の日本領土蚕食は、外国人本国の意思と関係がないと思われるが、何らかの政治的目的をもつ所有者による異質な私権行使が警戒されているのである。

 

3 土地所有と私有財産権


 日本の外国人土地法(1925年)に従うと、日本人による土地取得を禁止あるいは制限する国の国民に対しては、勅令(現在は政令)によって、日本における土地取得を禁止または制限できる(第1条)。
 しかしながら外国人による土地取得は、この第1条の政令、すなわち相互主義に基づいて外国人による国土取得を禁止または制限する政令が制定されていないため、外国人であっても日本人と同様な土地所有権が認められている。

 農地の購入については農地法(2009年最終改正)によって利用制限が付され、かつ所有権移転の際に地域農業委員会の審査を経ていなければならない(第3条)。 しかし農地以外の土地、たとえば森林や宅地などの所有権移転の場合は、農地法が適用されない。
 したがって、外国資本による農地以外の土地売買は、それが便宜名義人の名前であっても登記簿への登録で取引が成立してしまう。
 日本に居住していない外国人が日本の領土を購入する場合、外国為替法(2009年最終改正)に基づき資本取引の許可が義務付けられている(第21条)が、ほとんどの土地取得の届出が日本人名義で行なわれているのが実態で、外国人による領土取得は判明し難いと言えよう。

 日本の土地所有権の特徴は、所有者に対して極めて強い私権(私有財産権)が認められていることであり、この私権は、自己所有の土地の自由使用権はもとより、その最終処分権も含まれている。
 土地収用法(2010年最終改正)は、公共利益増進と私有財産との調整および国土の適正な利用の促進を目的(第1条)とした公権行使を規定しているが、同法は実質的に機能していない。

 したがって、仮に外国人が山林等を専ら外国の便宜目的に使用したとしても、政府は公権を行使し難いと思われる。
 多発する住宅地やリゾート地における日照権、景観権、環境権を争う裁判は、私権の行使と周辺他者との調和をめぐる事例であり、管理放棄の山林に起因するスギ花粉発生の放置や道路事業その他の公共事業の工期の大幅な遅延などは、 私権に対して公共福祉目的の公権行使が及び腰だったことから生じた例である。

 中国人や韓国人が所有する土地に従軍慰安婦像が設置され、碑文に反日的な文言が刻まれていた場合、果たしてこれを撤去させることができるのだろうか。
 たとえ周辺住民の迷惑を顧みないゴミ屋敷であったとしても、所有者からごみは資源である旨を主張されれば、行政機関は話し合いによる指導しかできないのは周知の事実である。  

4 領土蚕食に対する法的防衛措置


 外国人の土地所有について、例えば中国や韓国のように原則禁止または制限する国と、英国、米国、フランスのように原則として自由な国がある。
 日本の土地所有に伴う私権は諸外国と比較してきわめて強いのであり、たとえ外国人による土地所有を認める国であっても、その土地所有権は土地の利用権に近いものであり、公共の福祉目的の行政機関が行使する公権に優越できないのである。
 日本人による土地購入は自由であり、農地を除いて購入目的は問われない。
 外国人による日本領土の取得は、日本人名義で登録される限り、日本人の場合と同様の条件で購入が可能である。

 外国人の領土蚕食に関して、その購入が合法的であること、土地が外国へ持ち出せないことなどを理由に問題視しない政治家や有識者も多い。 しかし、諸国家の外国人に対する土地取得の制限や土地所有の私有財産権は、日本のそれと異なることについて、これらの政治家や有識者が理解しているとは思えない。

 外国人による基地周辺地の取得問題については、外国人土地法第4条の政令を速やかに制定する必要がある。また外国人の土地所有者の私有財産権に対して、相互主義に基づいた制限を付すべきであろう。
 このほか外国人土地法第1条の政令の制定、便宜的日本人名義の制限、50%に満たない山林の地籍調査の促進、公益的性格の森林の適正管理の義務化、河川法(2010年最終改定)改正による地下水への適用、 あるいは新たな地下河川法の制定など、国土安全保障の観点から党派的対立を超える法的防衛措置が期待される。

 日本の国益を毀損するような行為に対して、これを取り締まることができる法整備が望まれるのであり、このような法的な国土防衛措置が遅くなればなるほど、日本領土に慰安婦像が設置される可能性が高まるのである。
(2017年12月11日)